奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)は,マイクロ流体デバイスという微小な流路内に細胞を流し,ハイスループットでイメージングする装置の性能を飛躍的に向上させることに成功した(ニュースリリース)。
ハイスループットイメージング手法で代表的なマイクロ流体デバイスを用いた光タイムストレッチ(分散型フーリエ変換)手法は,スループットを向上させるためにできるだけ多くの試料を微小流路で速く流すために,試料を含む液体には高い圧力をかける必要がある。
しかし,①デバイスが大きく,微小流路も長くなるため,コストや流路中での圧力損失が増加,②試料導入や排出のための外部送液系は流路への垂直接続による試料の紛失やダメージ,③焦点ズレを抑えるためにさらに狭く細くなっている微小流路での局所的な圧力集中,といった問題があった。
また,は高流速や高圧に対応できるガラス製やステンレス製のデバイスは,樹脂製のマイクロ流体デバイスと比べ,作製過程が複雑でコストがかかる上に不透明であるなどの問題がある。
研究グループは,まず,従来のハイスループットイメージング手法に使用されるマイクロ流体デバイスのサイズを従来の1/4サイズに小型化した。この小型化により,デバイス全体のコストを75%削減することができ,流路も短くなり,圧力損失も最大で70%減少した。
また,シリンジなどの送液系と接続するチュービングも,従来の垂直接続方式から水平接続に変更することで,圧力損失をさらに低減し,試料の紛失やダメージを回避することができた。
さらに,極めて高い流速の場合,微小チャネル内で生体試料の三次元フォーカシング効果を発見し,従来の低流速時の試料分布と比較すると,高流速時では試料の分布がより小さい領域に抑えられ,イメージングの焦点ズレ現象と流路の詰まりを効率的に防ぐことができた。
今回,世界で初めて毎秒40mの超高速で生体試料を流すことが可能になった。さらに,超高速光タイムストレッチ法という画像取得の方法と組み合わせることで毎秒270万800万個の細胞のイメージが撮れる超ハイスループットイメージングを可能にした(従来の十数倍以上の効率)。
これにより,ディープラーニングなどのAIの進化と精度向上のための,膨大な画像データの提供が可能となり,未踏の超大規模画像解析領域に取り組むことができるようになった。研究グループは,これにより,血液中のがん細胞の早期発見など診断,治療法の開発や創薬への貢献が期待されるとしている。