東京農工大学とタムロンは,メタサーフェスを利用して,熱放射に対応する波長の赤外線を制御し,偏光方向ごとに分離して結像させるメタレンズを製作することに成功した(ニュースリリース)。
波長7~14μmの長波長赤外線は,サーモグラフィに利用されている。発光を見ているので照明光が不要で,夜間の人体検出などに応用されている。また,光が持っている偏光情報を解析すると,滑らかな表面を検知することができる。そのため,長波長赤外線で偏光情報を可視化できれば,夜間無照明での人体検知や車両検知への応用が期待される。
通常,このような測定には,イメージセンサの各画素に方向の異なる偏光子を配置した偏光イメージセンサが用いられる。しかし,偏光イメージセンサは高コストで,偏光子が入射光の半分を吸収・反射するので効率が下がってしまう。これは,イメージセンサの高感度化が求められる長波長赤外線において特に大きな課題だった。
これに対し研究グループではメタレンズを利用し,偏光を吸収するのではなく分離することで,長波長赤外線においても高効率な検出が,既存のレンズを交換するだけで簡単に実現できるのではないかと着想した。
今回,単結晶シリコン基板上に,長方形断面を有する柱構造をメタアトムとして数千万本配置した偏光分離メタレンズを設計・製作した。これは直交する2つの方向の偏光成分を,それぞれ別の場所に結像させることができる。
スーパーコンピュータ上での電磁場解析によって,設計通りの動作ができることを確認した。電子線描画装置,反応性イオンエッチング装置を用いてこのレンズを実際に製作し,はんだごてや右手のような対象を2つに分離して結像することを確認した。また,電車のおもちゃに長波長赤外線を照射すると,窓部分において偏光方向によって異なる反射率が得られることを可視化した。
今回のメタレンズは波長10μm(周波数約30THz,温度約27℃に対応)で設計されたものだが,この研究成果はシリコン柱の導波路効果に基づいており,非共鳴型であるため,複数の波長に対応させることが期待されるという。
研究グループは,熱輻射の持つブロードな波長帯域を広くカバーするレンズやカメラの実現によって,熱輻射の制御やセンシングへの応用が期待されるとしている。