東北大ら,高感度で軟組織のX線イメージングに成功

東北大学と独カールスルーエ工科大学は,X線位相イメージング法に使われるX線透過格子の構造と配置方法を工夫し,撮影感度を増幅する仕組みを考案・実証した(ニュースリリース)。

X線はその多くが透過してしまう軽元素からなる物質(高分子材料や生体軟組織)には十分な陰影が得られないという欠点がある。これを克服する技術として,X線位相イメージング法が研究されている。

X線位相イメージング法では,X線の吸収ではなく屈折や散乱に基づくコントラストで画像を生成する。原理的には,従来の吸収コントラストより約1000倍の感度が見込まれる。中でもX線透過格子を用いる方式は,病院や実験室で広く使われているX線管と組み合わせることができるため,その実用性に注目が集まっている。

一般的なX線透過格子を用いたX線位相イメージング法は,X線が被写体と格子を透過すると,X線カメラではX線のモアレが記録される。この構成はタルボ干渉計と呼ばれており,被写体による僅かなX線の屈折や散乱でモアレ画像が変化する現象をもとに被写体の画像を生成する。

撮影の感度は格子間の距離に比例し,また,格子の周期に反比例する。したがって,撮影の感度をさらに上げたい場合は,格子間隔を広げるか,周期の小さい格子を準備する必要がある。

格子間隔を大きくすることは装置の大型化を意味し,実用性の観点からは望ましくない。格子の周期(通常は数ミクロン)を小さくすることは,現在の格子製作技術では容易ではない。

研究グループは,これまで矩形構造であった格子を,X線集光効果のある凹型放物線形状の格子と反対形状の凸型放物線格子を組み合わせたものに入れ替えると,X線の屈折が増幅され,モアレ画像がより大きく変化することを見出した。これにより,コンパクトな装置構成で,且つ,従来の格子周期を維持したまま,感度だけが増幅される。

放物線格子は,約2倍の感度増幅を見込んで設計した形状のものを,X線リソグラフィとニッケルメッキによって製作した。これらで実験することで,感度増幅効果の実証を行なった。ナイロンファイバを撮影し,従来のタルボ干渉計による結果と並べて比較した結果,理論通り約2倍の感度増幅効果を確認した。

この研究は原理実証の段階にあるが,今後放物線格子が大型化されれば,国内外で進められているX線位相イメージング法の実用化開発(医用画像診断機器,非破壊検査機器,あるいはX線CT装置など)に適用できるという。

研究グループは,X線位相イメージング技術の展開範囲が広がり,社会普及を加速することが期待されるとしている。

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