JASRIら,X線小角散乱法で触媒の白金粒子だけ可視化

高輝度光科学研究センターと技術研究組合FC-Cubicは,X線小角散乱法を用いて,燃料電池等に用いられる触媒中の白金粒子だけを可視化し,その粒径などを正確に計測する技術を開発した(ニュースリリース)。

燃料電池において,触媒の性能を評価するのに白金粒子の粒径の測定は非常に重要だが,試料が白金粒子に近い大きさの構造を含むと,X線小角散乱法ではそれを白金粒子と区別できず測定結果に誤差が生じる。

このような影響を除いて白金の粒径を測には、異常分散X線小角散乱法しかないが,簡単にできる方法ではない。

そこで研究グループは,中性子散乱法や,X線では生体分子計測に用いられてきたコントラスト変調法を応用することにした。これは,試料が2種類の成分を含むとき,まわりの溶媒の密度(X線の場合は電子密度)を1つの成分と同じにすると,その成分がX線から見えなくなり,もう1つの成分だけが観察できるようになるもの。

炭素と白金では電子密度に大きな差があるため,この方法が適用できる。つまり,炭素と同じ密度の溶媒を使えば,炭素がX線から見えなくなり,白金の粒径を正確に測れると考えた。

しかし,たとえばタンパク質の水溶液であれば,タンパク質と水の密度はそれほど変わらないので,水にグリセリンやショ糖を溶かすだけでタンパク質を見えなくすることができる。

しかし炭素は密度がかなり高いため,グリセリンやショ糖は使えない。そこで,テトラブロモエタンという非常に密度の高い液体を使った。これと,ジメチルスルホキシドという密度の低い液体をいろいろな比率で混合することで溶媒の密度を調整した。

試料としてバルカン(商品名)という中実の炭素粒子を使い,そのX線散乱強度を溶媒中のテトラブロモエタン濃度に対してプロットした。溶媒の密度が炭素と完全に一致すればX線散乱強度はゼロになるはずだが,炭素粒子の密度は不均一らしく,散乱強度は完全にゼロにはならなかった。

しかしテトラブロモエタン濃度が50-60%のとき,炭素の散乱強度は空気中の数%となり,実用上は炭素からの散乱を完全に取り除いたと考えて問題ない。

この溶媒を使い,クノーベル(商品名)というメソポーラスカーボンに白金粒子を少しだけ混ぜた試料について測定を行なった。空気中では炭素の小孔からの散乱に邪魔されて白金の粒子径を決めることはできないが,50%テトラブロモエタン中ではそれを正確に決めることができた。

研究グループは,触媒の評価がコントラスト変調法によってさまざまな現場で行なわれていけば,燃料電池等に用いられる高機能触媒の開発に大きく役立つことが期待されるとしている。

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