関学ら,太陽光で医薬品の有用化合物を簡便に合成

関西学院大学と広島大学は,太陽光に応答する光レドックス触媒により,アリール亜鉛反応剤とハロゲン化アリールの電子触媒根岸クロスカップリング反応が,室温で進行することを見出した(ニュースリリース)。

2010年にノーベル化学賞を受賞した根岸および鈴木・宮浦クロスカップリング反応によって,医薬品や電子材料などの機能性物質の構造に多く存在するビアリール骨格を簡便に合成できるようになった。しかしながら,通常,希少金属とされるパラジウム触媒を用いる必要があり,また,加熱という熱エネルギーが必須であった。

地球規模でのエネルギー・資源問題の観点から,大量の熱エネルギーを用いる現状の物質・エネルギー変換プロセスに大きな変革が求められており,新たな科学技術の開発が切望されている。

研究グループは,2010年に遷移金属を用いないクロスカップリング反応を世界で初めて見出した。その反応は「電子触媒」反応と名付けられ,現在世界中で活発に研究が行なわれている。しかしながら,良好な化学収率を得るためには,100度以上の高温が必要であり,より効率的な物質変換反応の開発が強く求められていた。

研究では,太陽光に応答する光レドックス触媒BDAを用いることで,加熱を必要としない,室温での極めて汎用性が高いクロスカップリング反応の開発に成功した。さらに,光レドックス触媒のみならず,アニオンラジカル中間体の光励起が,室温での電子触媒反応を可能にする鍵になっていることを明らかにした。

加熱を必要としない理由の解明を,広島大学の研究グループが行ない,これまで,一重項電子励起状態(シングレット)が鍵であるとされてきた常識を覆し,三重項電子励起状態(トリプレット)が反応の鍵になっていることを見出した。

この研究で見出されたBDAを助触媒とする電子触媒反応は,太陽光を利用することで,有用化合物を室温で簡便に合成することができる。研究グループは,豊富に存在する太陽光エネルギーを用いる物質変換反応を工場レベルでの合成プロセスに移行することによって,持続可能な社会の発展に繋げることができるとしている。

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