東大ら,狙った場所に発光欠陥を生成し量子センサに

東京大学,物質・材料研究機構(NIMS),産業技術総合研究所は,量子センサをナノスケールのサイズで自在に並べる技術の開発に成功した(ニュースリリース)。

磁場測定は,基礎研究としても応用研究においても重要だが,特に,空間分解能の高い手法は,磁性体中の微小な振る舞いの調査に利用でき,例えば,ハードディスクの開発等にも役立つ。磁場測定において高い空間分解能を得るには,センサを小型化して測定対象に近づけることが必須となる。

ホウ素空孔欠陥は,六方晶窒化ホウ素のホウ素原子が空孔に置き換わった原子サイズの欠陥。この欠陥は,室温でも光学的に量子状態を読み出せる稀有な性質を持つため,量子センサとして磁場測定に利用できる。

特に,六方晶窒化ホウ素は100nm以下の厚みの薄膜にして測定対象に密着させることができるため,高分解能な量子センサの素材として優れている。しかし,ホウ素空孔欠陥を量子センサとして利用する技術は2020年に報告されたばかりであり,センサの作製手法などの基盤技術の開拓はこれからとなっている。

研究グループは,ヘリウムイオン顕微鏡によって微小なスポットにホウ素空孔欠陥を生成・配置し,高い空間分解能で磁場をイメージングする技術を実証した。窒化ホウ素のナノ薄膜を金線上に貼り付けた上で,ヘリウムイオン顕微鏡によってヘリウムイオンビームを照射し,ホウ素原子を弾き飛ばして量子センサを生成した。

金線上のスポットでは量子センサの発光信号が増加するが,このような発光信号の増加は磁場感度を増加させる。単一スポットの磁場感度を測定すると73.6μT/Hz1/2という値が得られた。この値は,1分間の測定で10μT(地磁気の約1/5),1時間の測定で1μT(地磁気の約1/50)という微小な磁場変化を検出できることを意味する。

この量子センサを高精度に配置する技術を利用すれば,高い空間分解能を持つ磁場イメージングができる。実際,光学的な測定でありながら,回折限界を超えるような高い空間分解能を得ることができたという。

この成果は,世界で初めて,窒化ホウ素量子センサのナノ配置手法を活用して高い空間分解能を持つ磁場イメージングに成功したもの。窒化ホウ素のナノ薄膜は,ファンデルワールス力によって,磁性体,電子デバイスなど,様々な対象に貼り付けることができる。

研究グループは,量子センサの新たな活用方法の可能性を提示した成果であり,局所磁場測定を利用する幅広い分野に貢献するものだとしている。

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