農工大,無偏光・超高屈折率・低反射率素材開発

東京農工大学の研究グループは,0.3THz(波長:1mm)で動作する,無偏光・超高屈折率・低反射率の新材料(メタサーフェス)を開発した(ニュースリリース)。

これまで,テラヘルツ電磁波を操るレンズなどの光学部品には屈折率や反射率などの材料特性が固定されている自然界由来の材料(シクロオレフィンポリマー,酸化マグネシウム,シリコンなど)が用いられてきたが,自然界の材料では実現できない超高屈折率を低反射率で実現できれば,新たな光学部品を生み出せる可能性がある。

研究グループはこれまで,テラヘルツ電磁波を操るため,一方向のみの偏光に対して高屈折率で振舞うメタサーフェスを開発している。その一方で,全方向の偏光に対して動作する取り扱いやすい超高屈折率・低反射率の新材料も求められていた。

研究では,どのような偏光方向に対しても超高屈折率・低反射率で振舞うメタサーフェスを,6G(Beyond 5G)通信での活用が期待される周波数帯である0.3THzで実現した。従来の一方向のみの偏光に対して高屈折率で振舞うメタサーフェスの構造からスタートし,電磁界シミュレータを活用した解析を経て,どのような偏光方向に対しても高屈折率で振舞うメタサーフェスの構造にたどりついた。

メタサーフェスは,テラヘルツ電磁波の波長の3分の1程度の大きさのメタアトムと呼ばれる正方形金属構造を誘電体基板の表と裏の両面に対称に配置して構成している。メタアトムの一つ一つは,テラヘルツ電磁波に対して原子や分子のように振舞う。

メタアトムの大きさや間隔を設計し,メタサーフェスの比誘電率と比透磁率を近い値で,かつ高い値に制御し,自然界には存在しない10を超える超高屈折率で1%の低反射率を実現した。

テラヘルツ時間領域分光法による実験により,このメタサーフェスが,0.31THzで屈折率14.0+j0.49,反射率1.0%,透過率86.9%の材料特性を有することを確認した。どのような偏光方向に対しても超高屈折率・低反射率で振舞うことは,作製したメタサーフェスをテラヘルツ電磁波の入射方向を軸として回転させて実験することで確認した。

全方向の偏光に対して超高屈折率・低反射率で振舞うメタサーフェスは,無偏光特性なメタレンズアンテナなどへの応用が進んでおり,次世代通信や各種センサ機器,X線に代わる安心安全なイメージングなどでの社会展開が期待されている。

研究グループは,このメタサーフェスを数10THz以上の赤外域まで高周波化できれば,製鋼スラブなどから排出される熱の放射を特定の方向に集中させることで,熱エネルギーを回収しやすくするなどのサーマルマネジメントへの応用も期待されるとしている。

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