大阪大学と奈良先端科学技術大学院大学は,レーザー技術を駆使することで,様々な形状の氷結晶の発生を精密に時空間制御できることを明らかにした(ニュースリリース)。
水を冷却して氷が形成する現象(氷の結晶化)は,様々な基礎科学・工業分野における重要な研究対象となっている。例えば,雪の結晶に代表される氷の多様な形状は,古くから温度や圧力など様々なパラメータに対する依存性や,気象・気候状況との相関が調べられてきた。
また,寒冷地における動物・植物は,凍ることを防ぐ特殊な物質(例:不凍タンパク質)を含んでいるケースが多々あり,氷の結晶化が生命維持メカニズムに深く関与している。また氷の結晶化を制御することは,食品・細胞・臓器などの生ものを長期冷凍保存する上でも欠かせない。
しかし,単に水を冷却するだけでは,氷の結晶化が起こる時間や場所を正確に予測することは不可能であり,さらに氷のような一成分系の結晶化(融液系の結晶化)は高速に進行するため,特に大容量(バルク)の水の中で氷の結晶が発生する瞬間を精密に計測することは困難だった。
研究グループでは,氷点下の水(過冷却水)中に,超短パルスレーザーを集光照射して刺激することで,集光領域の近傍から氷の結晶化が始まることを見出した。
このようなレーザーを用いた氷結晶化の時空間制御は,純水だけでなく,寒冷地の植物からの抽出液や,不凍タンパク質を添加した水溶液など,様々な溶液条件で実現可能であり,溶液条件に応じた様々な形状の氷結晶が発生することがわかった。
また,最適条件ではわずか1発のレーザー照射のみで氷の結晶を発生させることが可能であり,これによりマイクロ秒・マイクロメートルオーダーという極めて高い時間空間分解能で氷の結晶化挙動を光学顕微計測することに成功した。
この成果により,様々な溶液条件における氷結晶の形成過程を精密に調べることが可能になり,氷結晶化の詳細なメカニズムの解明に貢献できる。
氷の結晶化メカニズムは,氷が関与する様々な自然科学分野(例:気象学,地球・惑星科学,低温生物学など)や工業分野(例:食品・細胞・臓器の冷凍保存など)の発展に繋がることが期待できる。
またこれまで研究グループは,同様のレーザー結晶化手法を用いて,医薬品化合物,タンパク質,エレクトロニクス材料などを対象に,従来法では難しい構造・形状・サイズ・品質の結晶を得ることに成功してきた。
これはレーザーによる結晶化制御の高い汎用性と有用性を示すものでもあり,レーザーを用いた論理的なモノづくりのアプローチとして発展が期待されるとしている。