京大ら,1nm半導体量子細線の作製に成功

京都大学,東京大学,独フランクフルト大学は,グラファイト基板上に塩化ルテニウム(半導体)のナノ量子細線を作製する手法を発見した(ニュースリリース)。

半導体製造において,現在主流の電子ビーム・リソグラフィなどでは,細線の幅や間隔が10nm未満のいわゆる量子細線パターンを作製することは難しい。一方,ゼロから細線を形成・合成していくボトムアップ法では,原子サイズの量子細線を作製することも可能だが,均一な細線の作製やその配置が課題となっている。

そこで自発的に細線を形成し,なおかつそれらの細線が規則的に配列する例として,熱帯魚の縞模様やヒョウのまだら模様などを例とするチューリングパターンが期待されるが,この機構が原子スケールで起こりうるか,そして原子レベルの量子細線を作製することができるかは未知の問題だった。

そこで研究グループは,パルスレーザー堆積法を用いて高品質の塩化ルテニウム(RuCl3)薄膜をグラファイト基板表面に蒸着し,得られた試料の表面を原子分解能で観察した。

通常の薄膜成長では,核となる原子を中心にクラスターが形成される島状成長や,一層ごとに膜が成長する膜状成長が起きる。しかし,今回,幅が原子数個分のβ-RuCl3量子細線が周期的にならんだ構造が基板表面に形成された。

この量子細線は幅が原子数個分だが,その長さは1μm以上にも及ぶ。また,蒸着時間や基板の温度を変えることでこれらの量子細線の幅と間隔をチューニングできる。さらに,X字やY字のジャンクション・リング・渦巻き模様も形成された。これらは量子回路,光感応デバイス,原子コイルなどの応用が考えられる。

研究グループは渦巻き模様を含むいくつかのパターンに注目し,この量子細線パターンの形成機構は非平衡プロセスである可能性が高いことを明らかにした。これは,従来考えられていた限界を超える,原子スケールのチューリングパターンによる量子細線形成を示唆する。

さらに,トンネル伝導度の実験と理論的なバンド計算を比較することで,β-RuCl3の量子細線はモット絶縁体であることも明らかにした。これまでの実験では実現や測定の難しかった特殊な状態がこの系で生じている可能性があるとする。

この成果は,量子細線パターン自身を回路とするだけではなく,リソグラフィ用のマスクとし,グラフェンなどの他の物質を微細加工することも考えられる。研究グループは,得られた量子細線では特異な現象,例えば,朝永・ラッティンジャー液体と呼ばれる電荷とスピンが分離した状態や,トポロジカル量子コンピュータの実現に必要なマヨラナ粒子などが出現している可能性もあるとしている。

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