京都大学の研究グループは,独マックス・プランク研究所(MPI)と共同で,局所的に空間反転対称性が破れた「縺れ」結晶に起因した特殊な多重超伝導相の微視的性質を世界で初めて明らかにした(ニュースリリース)。
近年,特殊な結晶構造が生み出す超伝導状態や磁気状態に注目が集まっている。CeRh2As2は,結晶構造自身は空間反転対称性をもっているが,超伝導や磁気的性質に重要なセリウム原子サイトでは空間反転対称性が破れている特殊な結晶構造(縺れ結晶)を有している。
このような結晶では,結晶構造に起因した副格子の自由度によって2種類の超伝導状態が実現することが指摘されていた。ごく最近になって,MPIドレスデンのグループから理論と比較可能なCeRh2As2の発見が報告されたものの,その超伝導状態の性質については報告されていなかった。
研究グループは,CeRh2As2に対して核磁気共鳴(NMR)実験を用いて超伝導状態のスピン磁化率を測定した。NMR測定は超伝導状態のスピン磁化率を測定できる数少ない手法の1つ。また,NMRは,観測された核の位置に現れる内部磁場に敏感なため,超伝導と磁気特性を研究するための最も強力な手法の1つとなる。
さらに,NMRでは核の位置での局所的なスピン状態を測定するため,超伝導ペア密度波の検出にも有用と考えられる。研究グループは,スピン磁化率の測定から,2種類の超伝導状態が共にスピン一重項超伝導であることを明らかにした。
この実験結果は,高磁場の超伝導2相が超伝導ペア密度波状態であることを示す初めての実験結果になる。研究グループは,さらに,超伝導相内部に現れる反強磁性が低磁場の超伝導1相とのみ共存することも発見した。
研究で明らかになった超伝導状態や磁気状態は,CeRh2As2という特殊な結晶の副格子の自由度によって引き起こされる特異な超伝導状態の原因を解明する上で大きな手がかりとなることが期待されるという。
また,副格子自由度は銅酸化物超伝導体や鉄系超伝導体など転移温度の高い超伝導体にも存在しており,この研究の成果は,磁場に強い超伝導体の開発や新奇超伝導デバイスなどの開発につながる可能性があるとしている。
CeRh2As2の超伝導は発見から日が浅く不明な点も多いため,今後のさらなる研究によって,特異な超伝導状態,磁気状態の詳細をさらに解明していくとしている。