東北大ら,カゴメ格子超伝導を担う電子軌道を解明

東北大学,高エネルギー加速器研究機構(KEK),量子科学技術研究開発機構,北京理工大学は,CsV3Sb5の電子構造について放射光を用いた先端分光測定によって調べた結果,バナジウムとアンチモンが協力し,超伝導状態になることを発見した(ニュースリリース)。

カゴメ格子は,三角形が頂点を共有して周期的に配列した結晶対称性を有する。この特殊な幾何学的対称性は,グラフェンと類似する特異な電子構造の形成に加えて,カゴメ格子特有の強いフラストレーションを生じさせ,様々な量子現象を引き起こすことが理論的に予言されていた。

これまで知られていたカゴメ格子物質のほとんどは絶縁体だが,ここ数年でカゴメ格子を持つ金属が徐々に発見されてきたことで,カゴメ格子物質の電子物性に着目した研究が世界中で急激に進展している。なかでもCsV3Sb5は,カゴメ格子では珍しい,超伝導をおよそマイナス270℃(絶対温度3K)で示すことが発見され,大きな注目を集めているが,特殊な結晶対称性の下でなぜ超伝導が発現するかは明らかになっていなかった。

研究では,CsV3Sb5とそれに少量のNb(ニオブ)を添加して超伝導転移温度(Tc)を上昇させた Cs(V1-xNbx)3Sb5 について,その電子構造を角度分解光電子分光(ARPES)によって調べた。CsV3Sb5の電子構造は空間的に不均一,かつ,似通った運動量やエネルギーを持つ電子軌道が数多く存在するという複雑さを有するが,従来のARPES技術では空間・運動量・エネルギーの分解能が十分ではなかったため,このような複雑な電子構造を精度よく調べることは困難だった。

今回,KEKフォトンファクトリーの放射光を利用して高い空間分解能と運動量分解能を実現した「マイクロARPES」と分子科学研究所UVSORの「光電子運動量顕微鏡」という二つの新しい装置,および,東北大学に建設した「超高エネルギー分解能ARPES装置」を相補的に用いることで,全ての電子軌道を分離して直接観測することに成功した。

これにより,電子構造とTcの関係について系統的な研究が初めて可能となり,Vの電子とSbの電子が協力して超伝導を引き起こすことを突き止めることができた。これまでCsV3Sb5の超伝導機構について多くの理論モデルが提案されているが,そのほとんどはV原子の電子軌道のみを考慮したものだった。

研究グループは,今回の成果は,V電子とSb電子の協調関係という新たな効果を示したものであり,超伝導機構の最終解明に向けて重要な手掛かりとなるとしている。

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