名古屋大学とあいち産業科学技術総合センターは,金属3Dプリンタ技術のひとつであるレーザー粉末床溶融結合法で造形可能なアルミニウム合金を理論計算に基づき設計し,その3Dプリンタ造形材が,従来のアルミニウムより遥かに優れた高温強度を示すことを見出した(ニュースリリース)。
金属粉末を用いたレーザー粉末床溶融結合(L-PBF)法は,従来製造法で不可能な三次元複雑形状の部材を製造できる。その3Dプリンタで製造された金属造形体は,レーザー照射による超急冷凝固(1秒間に100万度以上の速さで液体金属が固体になる現象)を通じて造られる。
研究は,金属造形体の材料組織が非常に微細な構造を持つだけでなく,これまでにない非平衡状態であることに着目した。この金属3Dプリンタによる非平衡状態の創出は,軽量金属材料の代表であるアルミニウム(Al)の性能を飛躍的に向上させるだけでなく,従来の常識とは異なる物性を生み出すことも明らかにしてきた。
一般に,アルミニウムへのFe元素の添加は素材を脆くし,大気中での劣化を促進するため避けられている。しかしFeを含んだアルミニウムの3Dプリンタ造形体は,平衡状態よりも遥かに高濃度のFe元素を含む非平衡状態で,微細な準安定相を持つため,常温で比較的高い強度を有することを明らかにしてきた。
このようなアルミニウムの常識と異なる発見に着想を得て,未踏の物質探索空間であるAlとFe等の遷移金属元素の組み合わせを利用し,3Dプリンタに適用する新たな材料設計原理の構築を目指している。
研究では,金属3Dプリンタにおける超急冷凝固を模擬した熱力学計算を用いて,準安定相を安定化させるマンガン(Mn)元素を組み合わせたAl-Fe-Mn合金を設計した。MnはFeと同じ遷移金属で,アルミニウムにしばしば添加される元素。
高い強度のアルミニウムは金属3Dプリンタによる製造が困難であることが知られているが,設計合金は比較的幅広い製造条件で3Dプリントすることができ,優れた製造性を持つことがわかった。
また電子顕微鏡観察から,高濃度のMn元素が準安定相の内部に存在し,準安定相を安定化していることがわかった。設計合金の3Dプリンタ造形材は,従来のアルミニウムより200°C以上の高温にて遥かに高い降伏強度を示すだけでなく,世界で開発されているアルミニウムの3Dプリンタ造形体より優れている。この高温強度は,Mn元素による微細な準安定相の安定化に起因すると考えられるという。
研究グループはこの成果について,金属3Dプリンタ技術が複雑な形の金属部材を造るだけでなく,素材に高機能・多機能性をもたらすことを示したものだとしている。