NECは,独自開発した抽出技術による高純度半導体型のカーボンナノチューブ(CNT)を赤外線の検出部に適用した,「高感度非冷却型赤外線イメージセンサ」の開発に世界で初めて成功したと発表した(ニュースリリース)。
赤外線イメージセンサには,極低温に冷却して動作する冷却型と,常温付近で動作する非冷却型がある。冷却型は高感度で応答性に優れる一方,冷却器が必要になるため大型,高価で電力消費が大きく,かつ定期的な冷却器のメンテナンスが必要。一方,非冷却型は,冷却器が不要なために,小型,安価,低消費電力だが,冷却型に比べて感度や解像度が劣るという課題があった。
こうした中,同社は単層CNTに含まれる,温度に対して抵抗値が敏感に反応するという特性のある半導体型のCNTに注目し,半導体型CNT膜を赤外線検出部に適用した高感度の非冷却型赤外線イメージセンサの開発に初めて成功した。
同社は,1991年にCNTを世界で初めて発見し,これまでナノテクノロジーを牽引する研究開発を進めてきており,2018年には,合成直後の金属型と半導体型が混在する単層のCNTから,高純度に半導体型のみを抽出する独自技術を開発。この技術で抽出した半導体型CNTによる薄膜が常温付近において抵抗温度係数(TCR)が大きくなることを発見したという。
新たに開発した赤外線イメージセンサは,これらの実績・ノウハウにより実現したもので,高感度化のために重要な指標である高TCRを実現した独自技術による半導体型CNTを適用。これにより,現在主流となっている酸化バナジウムやアモルファスシリコンを用いた非冷却型赤外線イメージセンサに比べて,3倍以上の高感度化を実現した。
また,従来の非冷却型赤外線イメージセンサに採用している熱分離構造とこの構造を実現するためのMEMS素子化技術,および,印刷トランジスタ等で長年培ってきたCNTの印刷製造技術を融合することで,新たなデバイス構造を実現し,それらをアレイ化した640×480画素の高精細な非冷却型赤外線イメージセンサの動作に成功したという。
同社は,2025年にこのイメージセンサの実用化を目指して取り組んでいくとしている。