すばる望遠鏡,宇宙の新しい物理の可能性を示唆

すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラによる大規模撮像探査(HSC-SSP)の研究グループは,全探査の半分弱にあたる中間データを用いて,宇宙のダークマターの分布を精密に測定し,宇宙の標準理論を検証した。その結果,宇宙の新しい物理の可能性が示唆された(ニュースリリース)。

宇宙の標準理論によれば,現在の宇宙は,通常の物質が約5%,ダークマターが約25%,ダークエネルギーが約70%,そしてわずかな光子という組成で成り立っている。この組成に加えて,宇宙の初期に存在した原始ゆらぎを特徴づける2つのパラメータを加えた宇宙の標準理論は,多くの観測データを説明することに成功している。

研究グループは,すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ,Hyper Suprime-Cam(HSC)を用い,2014年から2021年にかけて大規模な撮像探査(HSC-SSP)を行なった。今回の研究成果は,全探査の半分弱にあたる約3年間分,約420平方度(満月2000個分)の天域の観測データに基づく。

研究グループは,アインシュタインの相対性理論が予言する重力レンズ効果に着目。遠方の銀河からの光は,途中に存在する宇宙構造の重力レンズ効果により「歪んで」観測される。逆に,遠方の銀河像の歪みを測定することで,宇宙構造の重力の強さを観測できることになり,重力の大半を占めるダークマターの空間分布を「見る」ことができる。

しかし,重力レンズ効果による歪みは極めて小さく,個々の銀河からは見分けることができない。そこで研究グループは,約2,500万個の銀河の形状を組み合わせることにより,宇宙の重力レンズ効果を正確に測定することに成功した。

研究グループは,宇宙の標準理論のパラメータ(宇宙の物理量)の一つである,現在の宇宙の構造形成の進行度合いを表す物理量(S8)を可能な限り「正確」に測定することを目指した。宇宙の標準理論が正しければ,様々な観測で得られたS8は全て同じ値になる。HSC-SSPによる結果はS8=0.76であり,欧米の重力レンズ効果の測定結果と一致した。

一方,HSC-SSPによるS8は,Planck衛星による宇宙マイクロ波背景放射の測定結果で得られるS8(0.83)よりも小さいことがわかった。その理由がHSCとPlanck衛星の測定誤差によるものと仮定した場合,2つのS8の値が今回の結果になる確率は5%以下。つまり,95%以上の確率で2つの測定結果が一致しないことが示唆された。

これは,標準理論には含まれていない宇宙の新しい物理が存在する可能性を示すもの。研究グループは今後,HSC-SSPの最終データを用いた解析とすばる望遠鏡の次世代超広視野多天体分光器による観測で,この問題の決着が期待されるとしている。

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