京都大学と東海大学は,一つの超短レーザーパルスをダイヤモンドに照射し,窒素-空孔(NV)中心をミリメートルレベルの広域で形成することに成功した(ニュースリリース)。
ダイヤモンド中のNV中心を用いた量子センサは,NV中心の数を増やすほど感度が上がり,室温で超伝導量子干渉計並みの高感度が期待されている。これまでフェムト秒レベルの超短パルスレーザーを用いてNV中心を作製したという報告はあったが,ダイヤモンドはグラファイト化しやすく,フルーエンスを抑えて多数のパルスを照射し,且つNV作製領域はマイクロメートル程度が最大だった。
今回用いたフェムト秒レーザーは京都大学が独自に開発,パルスの時間幅は35フェムト秒,パルス1発のエネルギーは最大500mJに達するため,十分なフルーエンスを維持しながら,従来よりも格段に大きなビームスポットが実現できる。
最初に直径41μmのスポット径を持つレーザーパルスを,ダイヤモンド試料に照射した。様々な条件で照射した結果,グラファイト化閾値を超える高いフルーエンスで照射する場合,照射領域で,パルス1回照射で照射領域にNV中心が形成できたことを確認した。
次に,パルス照射回数を1回に固定して,フルーエンスを増やしながらダイヤモンド基板に照射すると,フルーエンスが1.8J/cm2以上でNV中心の形成が確認でき,10J/cm2程度でビームスポット径と同じ大きさまでNV中心が形成され,フルーエンス54J/cm2のときに形成領域が100μmまで拡大することを確認した。
レーザーのポテンシャルを十分に引き出すため,光学系に工夫をしながら,最終的にパルスエネルギー166mJ,フルーエンス33J/cm2,スポット径1.13mmのパルス光をダイヤモンド基板に照射した。
照射領域の複数箇所で発光スペクトル測定を行なった結果,NV中心に由来するスペクトル形状が得られ,パルス1回の照射によってミリメートルサイズの領域にNV中心が形成されたことを確認した。
レーザー光照射による NV 中心の生成機構は,まだ十分に解明されていない。今回,グラファイト化閾値とされる値を超える高いフルーエンス条件で,一つのレーザーパルス照射後に,高温アニール処理を施すことなくNV中心を作製できた点は,レーザー光照射による生成機構を解明する点で学術的に重要だとする。
研究グループは今後,3次元的に広い領域での作製実証を目指し,それを用いた量子センサの高感度化も実証していきたいとしている。