九州大学の研究グループは,究極の柔らかさを持つ素材として液体に着⽬し,100%液体でできたレーザー光源の開発に成功した(ニュースリリース)。
曲げたり折ったりできる柔らかいデバイスが注⽬を集めているが,その素材として利用されてきたプラスチックの柔らかさには限界がある。
そこで,光共振器も液体でできたレーザーの試みが⾏なわれているが,そのためには,光が漏れ出さないよう真球の形状を持つ,直径数マイクロメートルほどの微⼩な液滴の作製が不可⽋となる。
しかし,グリセリンなどの⽔よりもはるかに蒸発しにくい有機物の液体でも,微⼩な液滴にすると数⼗分から数時間ほどで蒸発していまう。更に不揮発な液体で,真空状態でも蒸発しないシリコンオイルやイオン液体では,表⾯張⼒が⼩さく,超撥⽔基板を⽤いても半球の形状しか作製できなかった。
研究では,不揮発性のイオン液体のうち,⽐較的表⾯張⼒が⼤きなイミダゾール塩をフッ素化した微粒⼦を塗布した基板上へ滴下した。滴下する際の⽔滴の落下速度を抑え,かつ液滴を⼗分に⼩さくした状態で滴下することで接触⾓が⼤きくなり,真球に近い形状の液滴を⽣成できた。
実験で明らかになった接触⾓の分散と理論的な考察を合わせて,このとき実現される接触⾓が準安定状態であることを明らかにした。このようにして得られた液滴は,⼤気中でも1ヶ⽉以上にわたって安定で,その蒸発速度は顕微鏡や光学的な測定では検出できないほど抑えられていた。また,基板に強く吸着し,基板を垂直に⽴てたり振動させたりしても,落下や移動は⽣じないという。
この液滴にレーザー⾊素を添加してレーザー光源としての機能を調べたところ,およそ1μJ/cm2という,最も優れた有機マイクロ球体固体レーザーと同等のしきい値でレーザー発振することが分かった。
液滴はごく微量な空気の流れによっても変形し,それに伴ってレーザー発振波⻑が変化する。この変化量は⾵速によって変化させることができる。研究グループは,この⾵速による液滴変形の計算結果と変形によるレーザー波⻑変化の計算結果が実験結果と符合することも明らかにした。
さらに,同様の滴下⽅法をインクジェットプリンターで実現する⼿法を開発した。これにより,⼀定の⼤きさの液滴を,素早く⼤量に決まった位置に作製することができる。
今回開発した⼿法により,安定な液体レーザーデバイスを構築することができる上,変形や外部刺激応答性といった液体本来の性質を⼗分に発揮することができる。研究グループは,新たな柔らかい光デバイスの実現につながる成果だとしている。