北海道大学,愛媛大学,東京大学は,発光・受光機能に優れたガリウムヒ素系半導体ナノワイヤをシリコンウエハー全面に大容量で集積することに成功した(ニュースリリース)。
III-V族化合物半導体とシリコンエレクトロニクスとの統合は長年追求されており,様々なアプローチが試みられてきた。
熱膨張係数差から,シリコン上のIII–V族半導体のエピタキシャル成長は困難だが,小さな開口部から針状結晶を形成させるナノワイヤではエピタキシャル成長できる。太陽電池などの応用では大量生産が求められるが,エピタキシャル成長で主に用いられる,有機金属気相エピタキシーや分子線エピタキシーといった方法は不向きと考えられていた。
研究では,分子線エピタキシー法において,構成元素ガリウムの自己触媒効果を用いることで,市販のシリコンウエハー上に前処理を一切必要とすることなく,適切な結晶作製条件を用いるのみでデバイス応用可能な高品質なナノワイヤが簡便で大量に合成可能なことを示した。
ナノワイヤ作製は市販の2インチシリコン(111)ウエハーを基板に,分子線エピタキシー法により行なった。ここで,ガリウムヒ素結晶を成長させるために用いる構成元素のガリウムそのものを結晶の核生成と成長を促進する触媒として用いた。シリコンウエハー上にガリウム液滴を形成し,そこから光機能の高いガリウムヒ素ナノワイヤを形成させた。
具体的には,長さ約6µm,直径約250nmのナノワイヤを作製した。直径5cmのシリコンウエハー上では,約7億本の微細なナノワイヤを,前処理などを用いず単一の分子線エピタキシー法のみで簡便に形成することができる。
ナノワイヤを成長したウエハーは,市販のガリウムヒ素基板と同等かそれ以上の発光強度を持ち,さらにその発光波長はウエハー全体で均質だった。また,ナノワイヤ最外殻表面が空気に触れて自然酸化することで形成される自然酸化膜は,ナノワイヤの表面を安定な酸化膜で長期間保護し,光特性の向上に寄与することも示された。
ワイヤは非常に均質で高品質であり,微細な積層構造も形成可能であることから各種のデバイスも作製可能だという。ナノワイヤ群では効率的な光吸収が促進される結果も得られていることから研究グループは,太陽電池の大出力化や,シリコンテクノロジーへの安価で高機能な光機能付加など新しい展開が期待されるとしている。