兵庫県立大学,高輝度光科学研究センター(JASRI),京都大学は,ニッケル・コバルト酸化物NiCo2O4の薄膜において,レーザー照射のみでその磁気構造を変化させることに成功した(ニュースリリース)。
電子の自由度のうちスピンを用いるスピントロニクスは,新たな情報記録デバイスの開発にもつながるとして注目されている。特に,磁性体の磁化を,磁場を使用せず光のみで反転させる全光型磁化スイッチング(AOS)は,光照射した部分のみの磁化を可逆的に反転させることができるため,次世代の光磁気記録デバイスへの応用が期待されている。
今までAOSは,希土類であるGdや,重元素である白金を含む,重い元素からなる物質で観測されてきた。また,化学的に大気安定な酸化物では,ほとんど観測例がなかった。
今回研究グループは,そのような重元素を含まないニッケル・コバルト酸化物であるNiCo2O4薄膜において,作成した磁気光学カー顕微鏡を用いて,超短パルスレーザーをNiCo2O4薄膜に照射し,AOSの観測を試みた。
具体的には,パルス幅が200フェムト秒で波長1030nmの超短パルスレーザーと磁気光学カー顕微鏡を組み合わせて,レーザー照射下の磁区を観測できる装置を作製し,NiCo2O4薄膜のAOS観測を行なった。
測定に用いたサンプルは,5mm×5mmの基板上に膜厚30nmで作製した。磁場がない状態で,パルス間隔,レーザーのパワー,パルス数などのパラメータを変えながら,300Kから400Kの温度域でサンプル薄膜に照射した。
すると,380Kで1000パルス以上照射することで,AOSリングを観測できたという。このように,酸化物NiCo2O4薄膜において,パルスの蓄積と温度を上昇させることでAOSを生じさせることに成功したとする。
現在,情報化社会の著しい発展によって,社会全体が抱えるデータ量は膨大の一途をたどっているが,今回,酸化物であり希土類を含まないNiCo2O4薄膜において,磁場を使用せずにレーザーだけで磁化スイッチングが可能であるということを発見した。
この物質が酸化物であり,化学的に非常に安定しているということに加え,希土類のような重たい元素が含まれていないという点で,応用材料として実用的な側面を持っているとする。
このような材料でAOSが可能であるという発見は,次世代のデジタル情報光磁気記録デバイスの開発につながるもの。研究グループは,今後より効率的に,あらゆる物質において光磁化スイッチングを行なう方法を模索していきたいとしている。