東大ら,FeSiで室温下の電流誘起磁化反転を実現

東京大学,理化学研究所,東北大学は,FeSiが有するトポロジカル表面状態が,各種絶縁体を接合することで大きく変調されることを発見し,特にフッ化物絶縁体を接合することにより室温における電流誘起磁化反転を実現した(ニュースリリース)。

電流によって高効率・省電力なスピン操作を可能にする物質の開拓方針として,重元素のもつ強いスピン軌道相互作用を利用することが通例とされていた。一方で,それらの重元素は希少性や毒性といった点で課題がある。

FeSiは,結晶内部が非磁性絶縁体(磁石の性質を持たず電気を通さない状態)であるのに対して,表面では結晶内部の電子状態のトポロジーに由来した金属強磁性状態(磁石の性質を持ち電気を通す状態)を有することが近年発見された。

さらに,重元素を含有しないにもかかわらず,その表面では強いスピン軌道相互作用が生じ,電流誘起磁化反転の実現が示された。豊富な元素のみを用いたスピントロニクス材料としての可能性が期待されるが,一方で磁気転移温度(磁石の性質をもつ温度)が200ケルビン程度と低いことから,磁化反転は極めて低温でのみの実現に留まっていた。

研究は,トポロジカル表面状態を有するFeSiにおいてより高温での強磁性およびスピントロニクス機能を実現するために,Si基板上に作製したFeSi薄膜に種々の非磁性絶縁体薄膜を接合して,表面の電子状態に対する近接効果を調べた。

その結果,FeSiが有する表面強磁性磁化は接合した絶縁体材料によって大きく変調され,Si接合では磁化がほとんど抑えられる一方,フッ化物接合では磁化の大きさが増大し磁気転移温度も室温を大きく超えることがわかった。酸化物接合はこれらの中間的な性質を示している。

また,界面電子状態の第一原理計算によって,これらの近接効果はFeSi表面電子と接合した絶縁体材料の間の電子状態の混成度合いに由来することも明らかになった。

さらに,フッ化物接合によって磁気転移温度が上昇したFeSiは,室温下においても閾値以上の電流によって,磁化の向きを繰り返し反転できることがわかった。特に,外部磁場を印加しなくても磁化反転が可能であることも示された。その閾電流値は,室温下で磁化反転が可能な既存の物質と比較しても非常に小さいこともわかった。

今回,この物質において室温以上の温度でのスピントロニクス機能を実現したことは産業応用上でも大きな意義があるとし,研究グループは,環境負荷が小さく,省電力・高機能な次世代MRAMへの実現可能性が広がったとしている。

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