東大ら,半金属で室温スローライトの生成に道筋

東京大学と米国の研究グループは,半金属に赤外光を照射すると光学的性質が劇的に変化して巨大な屈折率分散が生じることを発見し,そのメカニズムを解明した(ニュースリリース)。

固体材料は自由に動き回る電子の有無によって金属と絶縁体に大別することができ,それぞれ全く違った光応答を示す。しかし,金属と絶縁体の中間のような性質を持つ半金属の場合には,金属的な応答と絶縁体的な応答の両方が起こって互いに影響を及ぼすため,強い光を当てたときに何が起こるかはよく理解されていない。

研究では,物性研究所で開発された精密な分光技術を駆使して,近年トポロジカル半金属と呼ばれて注目されているヒ化カドミウムに一定の周波数を持つ強い赤外光を照射し,光応答の変化を詳細に調べた。

ヒ化カドミウムの中の電子は質量が非常に軽く,一部の電子が実効的に質量ゼロとして振る舞うことが発見されて以来,その性質に注目が集まっている。研究グループは,周波数30THzの高強度マルチテラヘルツパルスをヒ化カドミウムに照射(ポンプ)し,応答の変化を12-45THz の広帯域で精密に計測(プローブ)する実験システムを開発した。

測定の結果,ポンプの周波数よりわずかに下の28THzでは光吸収の増大が生じるのに対し,わずかに上の31THzでは逆に吸収が減少してむしろ光が増幅されることを発見した。このときヒ化カドミウムの屈折率も周波数に対して急峻に変化するという,巨大な屈折率分散を示すことを明らかにした。

この特異な現象は,誘導レイリー散乱と呼ばれる非線形光学効果が自由電子のプラズマ振動の影響を受けて増大したものであることを明らかにした。一般的には,誘導レイリー散乱は他の非線光学効果と比べて影響はそれほど大きく現れない。しかし半金属における赤外応答の場合は,光を照射することでプラズマ振動の共鳴周波数が変わることの影響を受けて,誘導レイリー散乱が著しく増強されることを発見した。さらに,量子力学的な微視的モデルによる理論計算でも,巨大な屈折率分散が再現されることを確認した。

このように巨大な屈折率分散を持つ物質を使うと,スローライト(遅い光)を生成できることが知られており,光情報処理における応用が期待されている。従来のスローライト生成は,光吸収が起こりにくい絶縁性物質を極低温まで冷却する例がよく知られているが,今回の研究では,散逸が起こりやすい金属的な物質を使って,室温で無散逸スローライト生成を可能にする道筋を示した。

研究グループは,今後このような半金属の非線形性を通して更なる新規機能性が開拓されることが期待されるとしている。

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