京都大学,スミダ電機,産業技術総合研究所らは,低周波数の交流磁場を高感度に,且つ高周波数分解で計測できる新たな量子センシング手法を考案した(ニュースリリース)。
ダイヤモンド中のNV中心を用いた量子センサ(NV量子センサ)は室温で動作し,高感度,高空間分解能を有することから注目されている。核磁気共鳴(NMR)計測への応用の期待から,これまでNMR線幅の先鋭化を実現する量子ヘテロダイン(Qdyne)法などが注目されてきた。しかし,Qdyne法での交流磁場計測では,数十kHz程度の周波数で最大感度を有し,周波数が変わると著しく感度が落ちるという性質があった。
そこで研究グループは,検出信号の特に更なる低周波領域でも高感度を維持しつつ,スペクトル線幅を任意に先鋭化可能な計測を可能とする手法を考案した。この手法ではまず自由誘導減衰信号計測を行なう。
光励起(532nm)照射によりスピンを初期化し,次に90度マイクロ波パルスによりスピンコヒーレンスを生成し,τ秒後の90度マイクロ波パルスによりコヒーレンスを分極に移し,その後,光読み出しを行なう。
次に,自由誘導減衰信号計測を繰り返すと,信号(磁場)強度に応じてスピンコヒーレンスの位相の変化が計測され,信号(磁場)をオシロスコープで観測するように計測できる。
考案した手法の感度の周波数依存性を実験,及び理論的に見積もったところ,従来技術での結果(シミューレション結果)は,低周波数側では数百Hzの領域において感度が著しく悪くなる一方,今回の手法は,1Hzレベルの低周波領域でも感度を維持できていることが示された。
実証では1個のNV中心を用いた際,感度としては約10nT/(Hz)1/2が実現することが示された。多数のNV中心を含むアンサンブル系での測定により,更なる桁違いの高感度化が期待できるという。
研究グループはこの手法により,水分子のNMRをNV中心により計測した。この測定における試料は既存のNMR装置の磁場中におかれ,ダイヤモンド試料に誘導されたNMR信号をNV中心により計測した。その結果,最小で1.6Hzの線幅が計測され,これはこれまでの最小値(>10Hz)に比べ細く,NV中心を用いて計測したNMR信号の線幅としては,世界最小線幅を実証した。
今回の実証実験では核スピンから生じる磁場を計測したが,考案した手法は,磁場以外にも電場,温度,圧力などの物理量を計測することも可能で,NV中心以外の他の量子センサでも適用できるとしている。