神戸大学の研究グループは,同グループで開発した光オン・デマンドホスゲン化反応を使って,汎用有機溶媒のクロロホルムとアミノ酸から,安全・安価・簡単にNCAの合成に成功した(ニュースリリース)。
ホスゲン(COCl2)は,医薬品中間体やポリマーの原料として用いられているが,極めて高い毒性を持つため,代替する化合物や化学反応の研究開発が行なわれてきた。研究グループは,汎用有機溶媒のクロロホルムに紫外光を照射すると,酸素と反応して,ホスゲンが高効率で生成することを初めて発見している。
さらに安全かつ簡単に用いるために,クロロホルムにホスゲンと反応させるための反応基質や触媒をあらかじめ溶解させておき,光でホスゲンを発生させると,即座にそれらが反応して生成物が得られる手法も発見した。研究グループはこれを「光オン・デマンド有機合成法」と命名し,これまでに数多くの有用な有機化学薬品やポリマーの合成に成功してきた。
研究では,クロロホルムとα–アミノ酸を原料として,ポリペプチドの原料となるα-アミノ酸N-カルボン酸無水物(NCA)の光オン・デマンド合成に成功した。水に溶けやすいα–アミノ酸は,有機溶媒のクロロホルムに溶けにくく,従来の光オン・デマンド合成法ではNCAを合成することはできなかった。
しかし,水やクロロホルムと混じり合うアセトニトリル(CH3CN)を溶媒として添加したところ,NCAが高収率(~91%)で得られることを発見した。アセトニトリルは,光を吸収してクロロホルムの光酸化反応を妨げるため,通常であれば反応は進行しないと予想される。
しかし,研究ではそれが過剰に存在しても反応が進行することを見出した。この光反応は,光で分解する原料(アミノ酸)を除いて,ホスゲン法で合成されるNCAの多くに利用でき,現在までに11種のNCAを合成した。
具体的な合成方法として,クロロホルムとアセトニトリルの混合溶媒にα–アミノ酸を懸濁させた溶液に,70℃で2〜3時間光照射を行ない,ランプをOFFにしてさらに1時間程度の加熱・撹拌によってNCAを生成した。これを抽出して精製することによって<高純度のNCAを合成することができた。
クロロホルムの光酸化は,C–Cl結合の光開裂で開始するラジカル連鎖反応で進行するため,用いる光源はそのままにして、反応容器のサイズを大きくするだけで,~10gスケールの合成を達成できた。さらなるスケールアップも可能であり,アカデミアから化学産業まで幅広い分野での利用が期待されるという。
研究グループはNCAの入手が容易になることで,新材料の誕生が期待されるとしている。