東芝は,高効率・低コスト・高信頼性タンデム型太陽電池の実現に向けて,キーデバイスとなるトップセルとして開発中の透過型亜酸化銅(Cu2O)太陽電池において,世界最高の発電効率を更新し,発電効率9.5%を達成した(ニュースリリース)。
タンデム型太陽電池は,2つの太陽電池重ね合わせ,両方のセルで発電することにより全体としての発電効率を上げる。同社は,トップセルの透過型Cu2O太陽電池の発電効率の向上させるとともに,量産化に向けてさらに大型化したセルサイズの試作に成功した。
Cu2O発電層はスパッタ装置を用いた,大面積に拡張可能な反応性スパッタ法で薄膜形成しており,個々の結晶粒が発電層膜厚を貫通する数ミクロンサイズの大きさを持ち,それら結晶粒が横に並んだ多結晶薄膜で構成される。
光で生じたキャリア(光キャリア)は縦方向(膜厚方向)に拡散して,プラスキャリア(正孔)は裏面透明電極から外に取り出し,マイナスキャリア(電子)はn層を介して表面透明電極から外に取り出すことで,発電の出力を得る。
この光キャリアは,発電層内の縦方向だけでなく,横方向にも拡散する。同社はこれまでにCu2O発電層中の不純物を最小化する成膜技術を開発しており,光キャリアが発電層の横方向に拡散する距離(キャリア拡散長)は結晶粒の10倍以上長い数十μm以上と推測され,セル壁面まで拡散した光キャリアの再結合が効率低下の要因の1つになっていた。
今回同社は,この光キャリア再結合の抑制には,セルサイズの拡大が効果的であることを突き止め,発電セルの面積を従来の3mm角から10mm×3mmに拡大したところ,セル壁面で再結合する光キャリアが相対的に減少し,光電流(短絡電流Jsc)が約1割増えて,発電効率を9.5%まで改善した。
セルサイズの拡大が発電効率の向上に繋がるというCu2Oの特徴は,Cu2O太陽電池の大型化に有利な特性であり,この成果は,同社が目標としている10%まで0.5ポイントに迫る。
この透過型Cu2Oをトップセルに,25%の高効率Si太陽電池をボトムセルに適用したCu2Oタンデムの発電効率は28.5%と試算した。これはSi太陽電池の世界最高効率26.7%を大きく上回り,GaAs太陽電池の世界最高効率29.1%に迫る。このタンデム型太陽電池を電気自動車(EV)に搭載した場合,充電なしの航続距離は1日あたり約37kmと試算した。
さらに大面積基板に成膜可能な大型スパッタ装置により,昨年12月に公表した3mm角セルの約180倍の発電面積を持つ40mm角のセルを試作した。同社は今後,市販されているSi太陽電池と同サイズの数インチ級のセル製造技術を確立し,量産化を目指すとしている。