東京大学と物質・材料研究機構は,窒化物結晶を用いて超伝導体と半導体の高品質接合を作製することに成功した(ニュースリリース)。
金属元素は窒素と化合し,結晶化すると,さまざまな機能を生み出す。例えば,窒化ニオブは低温で超伝導体となり,量子コンピュータの心臓部となる量子ビットや,極低温で単一光子を検出する超高感度検出器などに利用されている。
一方,アルミニウム,ガリウム,インジウムなど13族元素の窒化物は,半導体として機能し,高効率発光ダイオード,レーザー,高電子移動度トランジスタとして実用化されている。窒化物半導体は,ウイルス不活化用紫外線光源や,電気自動車などで電力を制御するパワーデバイスとしての開発も進められている。
ごく最近,窒化物超伝導体と窒化物半導体をひとつのデバイスに集積させ,それぞれの機能を融合させる研究が行なわれている。例えば,単一光子を利用した演算素子や2次元電子と超伝導状態を共存させるトランジスタなどの新しい量子デバイス構造が提案されている。
しかし,立方晶の窒化物超伝導体と六方晶の窒化物半導体を接合すると,結晶系の違いに起因する高密度の結晶欠陥が接合界面に形成され,素子性能を低下させる要因となることがわかっている。
そこで研究グループは,スパッタ法を用いて窒化ニオブ(NbN)超伝導体薄膜を六方晶の窒化アルミニウム(AlN)半導体上に作製した。NbN薄膜をエピタキシャル成長させる温度を800℃から1,220℃の範囲で精密に制御しながら複数の試料を作製し,結晶構造,電気的特性と化学結合状態を評価した。
その結果,エピタキシャル成長温度の上昇に伴い,NbN薄膜の窒素組成が減少し,結晶構造がδ型(立方晶)からγ型(正方晶)を経てβ型(六方晶)に変化することを発見した。六方晶のAlN上に六方晶のβ型NbNを作製できたのは,今回が初めてだという。
AlN上に1,220℃で作製した六方晶のβ型NbN薄膜の表面は原子レベルで平坦であり,高品質な結晶が得られていることを確認した。加えて,β型NbNはAlNと結晶構造やサイズが近いため,β型NbN結晶の第一層目からコヒーレントに成長していることも確認できた。さらに,このβ型NbNの超伝導転移温度は約0.4Kであり,他の結晶構造を含まない純度の高い薄膜であることが示された。
これによって,窒化物半導体と超伝導体のエレクトロニクスがシームレスに繋がるようになる。研究グループは,窒化物半導体エレクトロニクスを基盤とした,極低温動作トランジスタや,単一光子制御素子などの開発につながるとしている。