KEKら,ミュオンでリュウグウの石の元素分析に成功

高エネルギー加速器研究機構(KEK),日本原子力研究開発機構(JAEA),大阪大学,東京大学,京都大学,国際基督教大学,宇宙航空研究開発機構(JAXA),東北大学は,ミュオンを用いた元素分析法を小惑星リュウグウの石に適用し,非破壊でその元素組成を明らかにした(ニュースリリース)。

一般にサブミリメートルからマイクロメートルの大きさで空間スケールが不均質な太陽系の始原物質について,一度も地球大気に晒されていないより大きな試料の平均的な化学組成を分析できれば,不均一性の問題を解決し,太陽系全体の元素組成を明らかにできる可能性がある。しかしこのような分析を非破壊で行なうことは困難だった。

研究グループは,世界最大強度のミュオンビームを利用できるJ-PARC MLFにおいて,ミュオンを用いた元素分析法をリュウグウの石に適用した。これは,加速器で得られるミュオンを試料に打ち込み,出てくるミュオン特性X線を分析するもので,非破壊で元素を特定することができる。

しかし,ミュオン元素分析は1g以下の試料に対する分析の実績がなく,また,リュウグウの石は地球大気に一切触れていない,地球物質の汚染が全くない試料であり,これまでの隕石とは全く異なる取り扱いが必要だった。

そこで分析をヘリウムガス雰囲気の中で行なうことができる専用の測定システムを開発し,分析装置の内部を全て試料に含まれていない純銅で覆うことで,少ない試料でも分析可能な極めてバックグラウンドの低い測定条件を達成した。

ミュオンによる元素分析によりミュオン特性X線のスペクトルが取得された。特に生命の材料物質である炭素・窒素・酸素について,リュウグウの石を損ねることなく検出することができたのは画期的だという。

ミュオン元素分析法は非破壊のため,0.1g程度の大きなリュウグウの石を分析することができた。これにより分析の結果は小惑星リュウグウの平均的な元素組成に最も近い値を示していると考えられるという。

さらに元素組成は,太陽系の固体物質の化学組成の基準となっているCIコンドライトという種類の隕石とおおむね似た組成をしていることが分かった。これは,リュウグウの石が太陽系において極めて始原的な物質であることを明確に示すもの。

さらに酸素の含有量は,CIコンドライト隕石と比べ約25%少ないことが明らかになった。これはこれまで太陽系の化学組成の基準とされていたCIコンドライトが,地球物質の汚染を受けていた可能性を示唆しており,CIコンドライトよりもリュウグウの石の方が,太陽系を代表する物質として相応しい可能性があるという。

研究グループは,ミュオンビームが衛星探査で得られた試料の分析手法の一つとして確立していくことが期待されるとしている。

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