東北大ら,試料を大気に晒さず反射スペクトルを測定

東北大学,産業技術総合研究所(産総研),東京大学は小惑星探査機はやぶさ2が小惑星リュウグウから回収した試料を地球大気と反応させないように工夫して反射スペクトルを測定した(ニュースリリース)。

リュウグウ試料の主成分は含水鉱物であり,CIタイプの隕石とよく似ているとされる。ところが,両者の反射スペクトルを比較すると,リュウグウ試料はCIタイプ隕石よりずっと黒く,ヒトの目に見える波長域の反射率にして2倍の差があるが,その理由は謎だった。

研究ではリュウグウ試料とCIタイプの代表であるオルゲイユ隕石,さらにオルゲイユ隕石をさまざまな条件で実験的に加熱した試料の反射スペクトルを測定し比較した。

まず研究グループは,試料を地球大気に触れさせずに反射スペクトルを測定する方法を確立し,宇宙空間での姿に限りなく近い状態でのリュウグウ試料の反射スペクトル測定に成功した。また,リュウグウ試料と比較するために,CIタイプ隕石を真空下かつ還元的な雰囲気においてさまざまな温度・時間条件で実験的に加熱した。

加熱後の試料もリュウグウ試料同様に地球大気にさらすことなく反射スペクトル測定を行なった。得られた反射スペクトルを比較した結果,摂氏300度で加熱した試料が最もよくリュウグウの反射スペクトルの特徴を再現することがわかった。

加熱後の隕石試料の構成物質を調べると,300度の実験的な加熱では含水鉱物が分解されないものの,含水鉱物中に含まれる鉄の還元が起こっていることがわかった。また,加熱によって非加熱のオルゲイユ隕石に含まれていた分子水が除去され,硫酸塩が脱水することがわかった。このような300度で加熱されたオルゲイユ隕石の構成鉱物の特徴は,リュウグウの構成鉱物の特徴とよりよく一致している。

つまり,オルゲイユ隕石の反射スペクトルは1864年に地球に落下してから150年以上に及ぶ大気中の酸素や水分子との反応の末,地球環境の情報で上書き保存された状態であるといえる。

隕石の分類に用いられる電子顕微鏡観察などの他の分析手法に比べて,反射スペクトル分析は始原的な隕石の地球での変質に特に敏感であるということが今回の研究から確認された。

研究グループは,今後,隕石の地球上での変質による反射スペクトルの変化を考慮することで,観測による小惑星構成物質の特定の精度を上げることができるとしている。

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