KEKら,ミュオンを光速の約4%まで加速

高エネルギー加速器研究機構(KEK),岡山大学,名古屋大学,九州大学,茨城大学,日本原子力研究開発機構,新潟大学は,正ミュオンを光速の約4%まで加速する技術の実証に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。

宇宙線として見つかったミュオンを人工的に作るにはまず,陽子加速器で陽子を光速近くまで加速し,黒鉛などの標的にぶつける。するとパイ中間子ができ,それが崩壊してミュオンができる。

大強度陽子加速器施設(J-PARC)では,1秒間に1億個ぐらいのミュオンができるが,このミュオンは,陽子,パイ中間子を経た「孫粒子」のため,向きや速さがバラバラで,素粒子標準理論のほころびを超精密に検証するミュオンg-2/EDM実験などには向いていない。

ミュオンはマイナスの電荷とプラスの電荷を持つものがあり,お互いに粒子・反粒子の関係にある。プラスの電荷を持つ正ミュオンは,ほぼ止まるまで減速して向きと速さをそろえる(冷却)することができ,そのあと電場で加速すれば,向きと速さのそろった指向性の高いミュオンのビームとなる。

しかし,加速に使う加速空洞には向きがバラバラだと効率よく入れることができず,また速さが不ぞろいだと加速の効率が悪くなり,加速は難しかった。

J-PARCでは,陽子加速器でできた光速の30%程度の速さを持つ正ミュオンをシリカエアロゲルに打ち込む。このとき正ミュオンはシリカエアロゲル中の電子と結びついてミュオニウムという中性原子になる。

ここにレーザーを照射して電子をはぎ取り,正ミュオンに戻すことで,いったん光速の 0.002%という「ほぼ停止状態」まで冷却された正ミュオンを得る。

このときレーザーの発振周波数をミュオニウムの内部状態に共鳴させることで,電子をはぎ取る効率を何桁も向上できるが,発振周波数がわずかでもずれると電子をはぎ取ることが全くできない。そこで研究グループではレーザー周波数を11桁という非常に高い精度で制御し,24時間連続運転で1ヶ月に渡って制御し続けることが可能な技術を開発した。

冷却されたミュオンに高周波電場をかけて改めて正ミュオンを加速すると,加速するほど向きがそろった飛躍的に指向性が高いミュオンビームが実現し,さまざまな実験に使える。

ミュオンの寿命は2マイクロ秒ほどで,素早く加速しないと崩壊してしまう。電子より200倍重いので段階的に加速する必要もあるが,技術開発を進め,最終的には光速の94%まで加速する予定だという。

研究グループは,加速されたミュオンを使ったさまざまな研究の発展が期待されるとしている。

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