産総研ら,反応溶液とガスを分離する分光法を開発

産業技術総合研究所(産総研)と筑波大学は,気泡が発生する化学反応の進行過程でも反応溶液の安定した分光測定ができる新しい手法を開発した(ニュースリリース)。

ギ酸を水素キャリアとして社会実装するためには1年以上活性が維持されるギ酸脱水素化用触媒の長寿命化が求められる。触媒の改良のためには,ギ酸から水素を生成する反応メカニズムの詳細な解明が必要だが,反応時に生成する水素や二酸化炭素のようなガスが影響して,分光学的測定を使うことが難しく,触媒の劣化機構の解明などが進んでいなかった。

そこで研究グループは,生成ガスを反応溶液から分離し,安定したシグナルを得るための簡単で効果的な方法を考案した。この技術開発は,生成するガスが混合した懸濁液を円筒状のセル内で高速でかき混ぜると,ガスと液体の密度の違いによる遠心力の差で,ガスは容器の中心部分に,液体は容器の外周部分にと速やかに分離されることを発見したことが発端となる。

そして,分離された液体に光散乱剤として高純度のα-アルミナを適量添加して,プローブ光を照射したときに十分な散乱光が得られるように調整し,さらに得られた散乱光を凹鏡で集光することで,十分な強度を持つ安定したシグナルを検出し,高いS/N比の紫外可視拡散反射スペクトルを得ることに成功した。

この手法を用いてギ酸の脱水素反応の活性化エネルギーを求めたところ,従来のガス流量計で測定した値(71kJ/mol)に対して,若干低いエネルギー値(69kJ/mol)が得られた。例えば羽根車式のガス流量計によるガス発生量を検出では,羽を回すための圧力損失など機械的なロスを伴う。一方でこの技術は,それらの影響を受けないためより正確な値が得られたことになる。

今回,気泡が発生する化学反応でも,反応溶液を円筒状のセル内で高速にかき混ぜることで,ノイズが少なく安定した紫外可視拡散反射スペクトルの連続測定を実現した。この技術は,さまざまなガスが生成し従来リアルタイム測定が困難であった反応での触媒性能の評価や反応速度の研究などに利用できるという。

研究グループは,この分光技術の高い汎用性から,赤外分光法やX線分光法などのさまざまな分光法に適応し,未解決だった反応機構の解明に役立てて行くほか,ギ酸の脱水素化反応時の詳細な反応機構の解明により,触媒の長寿命化を進めるとしている。

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