東京大学,理化学研究所,北海道大学,大阪大学は,原子層数層からなる二次元金属NbSe2と二次元強磁性体V5Se8を重ねた磁性ファンデルワールス(vdW)ヘテロ構造を作製することに成功し,実験と理論の比較から,このヘテロ構造の界面ではNbSe2中の伝導電子のスピンとバレーの両方が自発的に分極した「フェロバレー強磁性」という新しい状態が形成されていることを明らかにした(ニュースリリース)。
近年,各層がvdWギャップで隔てられた構造を持つvdW物質を原子層数層レベルにまで薄くした上で積層させたvdWヘテロ構造の研究が注目を集めている。このvdWヘテロ構造では,層間の結合力が極めて弱いため,格子整合の制約を超えたヘテロ構造の構築ができる。
また,各層を構成する物質を単層レベルにまで薄くすることで,界面の物性を系全体の物性として取り出すことが可能。これらの特徴を最大限に利用することで,非常に幅広い物質を対象としたヘテロ構造の構築が可能となり,さまざまな物性や機能性の実現につながるものと期待されている。
このようなvdWヘテロ構造の研究は世界中で行なわれている。特に,ヘテロ構造を構成する物質の一方に磁性体を用いた磁性vdWヘテロ構造では,隣接する非磁性体に磁気的な性質を誘起することができる。
とりわけ強磁性体と非磁性金属を積層させた磁性vdWヘテロ構造では,もともと磁性とは縁のない物質に対しても磁性を導入することが原理的には可能であるため,新物質創成・新機能創出の観点から重要となる。しかしながら,これまでそのような磁性vdWヘテロ構造で非磁性金属に磁性(特に強磁性などの長距離磁気秩序)を誘起した例はなかった。
研究では,非磁性金属に二次元金属であるNbSe2超薄膜,強磁性体に二次元強磁性体であるV5Se8超薄膜を用いた磁性vdWヘテロ構造を作製し,もともと非磁性金属であったNbSe2が強磁性状態を形成しているという結論を得た。
また,強磁性NbSe2のバンド構造に対する考察から,この強磁性状態は,スピンに加えてバレーも自発的に分極した「フェロバレー強磁性」であるという結論を得た。
伝導電子のスピンが自発的に分極した強磁性状態は多くの強磁性金属で実現されており,スピントロニクスへの応用が盛んに研究されている。今回,スピンに加えてバレーも自
発的に分極したフェロバレー強磁性が実現されたことにより,従来のスピントロニクスだけでなく,電子のバレー自由度を情報担体として利用するバレートロニクスへの応用展開も期待される。
また,NbSe2はもともと超伝導体であるため,極低温では超伝導とフェロバレー強磁性が結合した新奇量子相の発現も期待されると研究グループはしている。