東大ら,マウスを透明にし3次元・高解像度で可視化

東京大学と理化学研究所は,組織透明化手法CUBICによりマウスのさまざまな臓器を透明化し,血管・リンパ管を臓器のまま3次元かつ高解像度にて可視化した。さらに,名古屋大学と取得した画像を位相的データ解析などの数理学的手法を取り入れて解析することで,3次元の脈管の構造を総合的に評価する方法を新たに確立した(ニュースリリース)。

近年,血管やリンパ管など脈管構造の解析に3次元画像が用いられている。しかし,1細胞レベルの詳細な解析には未だ免疫組織学的手法を用いた2次元の画像解析が一般的で,取得された画像の評価には脈管の分岐点や長さ,幅といったパラメータが利用されており,脈管構造を「形」から総合的に評価する手法はこれまで確立されていなかった。

組織透明化手法CUBICにより,マウスのさまざまな臓器を高度に透明化した後,ライトシート顕微鏡によって撮影することで1細胞レベルの解像度を有して3次元の観察が可能となる。研究では抗体による免疫組織染色法に加え,VEカドヘリン陽性の血管内皮細胞特異的に赤色蛍光タンパク質tdTomatoを発現するマウス,リンパ管内皮細胞に発現する転写因子Prox1プロモータ下流に緑色蛍光タンパク質GFPを発現するマウスを用いた。

これら遺伝子組み換えマウスとCUBICを組み合わせることで,さまざまな臓器での血管やリンパ管を3次元かつ高解像度に観察することに成功した。自家蛍光の高い画像やシグナルが弱い画像であっても,目的とするシグナルを抽出することができるように機械学習を取り入れ,脈管と考えられるシグナルを抽出した。

次に,これら観察された画像から脈管の「形」の違いを解析するために,位相的データ解析の1つであるパーシステントホモロジーにより評価した。脳血管を評価したところ,脳領域の中でも特に大脳新皮質の血管構造が特徴的であることが示された。また,非定常ポアソン過程(NHPP)により脳血管の広がり,方向性の評価も行なえることも示した。

次にパーシステントホモロジーを病態モデルにも応用した。ブレオマイシンによる肺線維症モデルではリンパ管が損傷し,対照群や生理食塩水投与群とは大きく異なるリンパ管構造を示すことが示された。

また,肺転移モデルでのがん転移とリンパ管のCUBICによる可視化も行なった。がん転移とリンパ管の3次元の距離を解析し,がん細胞移植から10日後ではリンパ管が多くの転移したがん細胞と接するようになっていることがわかった。さらに,転移したがん細胞とリンパ管が接するように見える数日前に一時的に構造が変化している可能性が示唆された。

研究グループはこれらの成果により,今後さまざまな病態モデルでの活用が期待されるとしている。

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