東大,がん転移などに有用なイメージング法を開発

東京大学の研究グループは,組織透明化手法と細胞周期を観察することができる蛍光プローブを組み合わせることで,マウス臓器内のがん転移を臓器のまま,3次元かつ1細胞解像度を有して,細胞周期を観察する系を立ち上げた(ニュースリリース)。

研究グループは2017年,それまで主に神経科学分野で開発・応用がなされてきた「組織透明化手法」を,がん研究に導入し,マウスを用いたさまざまな応用例を報告してきた。

この手法は薄切することなく,マウスの臓器のまま,1細胞解像度を有して3次元でがん転移を捉えることができる。今回,研究グループは,がん転移メカニズムを詳細に解析するため,捉えられたがん転移の特徴をも同時に捉えることを目標とし,理化学研究所が開発した「Fucci」(フーチ)システムに着目し,がん転移における細胞周期の観察を試みた。

細胞周期を観察することができるFucciは増殖期であるS/G2/M期の細胞が緑色蛍光タンパクを,休止期であるG1期の細胞が赤色蛍光タンパクを示す。研究グループはヒト肺がん細胞A549とマウス乳がん細胞4T1に安定的にFucciを発現する細胞株を樹立した。

これらの細胞は増殖抑制作用を持つサイトカインで刺激されると,増殖期である緑色を示すがん細胞が減少し,G1期である赤色を示すがん細胞が増加することがわかる。

樹立した細胞株を用いてさまざまなマウスモデルでのがん転移を組織透明化手法によって観察した。組織透明化手法にはさまざまな種類があるが,研究グループはCUBICを使用した。CUBIC試薬を用いることにより担がんマウスより取り出した肺や脳,骨などの臓器を高度に透明化することが可能となる。

これら高度に透明化された臓器をライトシート顕微鏡によって観察し,1細胞レベルの高解像度画像を取得する。さらにそれら得られた画像を再構築することで3次元画像を得ることができる。

この手法を用いてA549細胞と4T1細胞を移植した担がんマウスでのがん転移を観察し,転位先による転移巣の大きさの違いや,細胞周期のパターンが臓器間で異なることが示唆される結果を得た。

次に抗がん剤の4T1細胞に対する効果を評価したところ,S/G2/M期で細胞周期が停止することがわかった。さらに,動物実験でも同様の結果を得た。これにより研究グループは,この研究ががん転移や抗がん剤耐性などのメカニズム解析にたいへん有用であるとしている。

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