京都大学,慶應義塾大学,早稲田大学は,フォトニック結晶レーザーの設計において,量子アニーリングによる組合せ最適化手法を適用することにより,従来設計と比較して,レーザーの性能を飛躍的に向上可能な新設計を見出すことに成功した(ニュースリリース)。
製造分野の最適化問題において,現実的な時間内に全てのパラメータを最適化する手法として量子アニーリングが近年注目を集めており,配送ルートや人員シフトの最適化等の一部の問題に対しては,既にその有用性が実証されつつある。
しかしながら,製品設計や製造プロセスの最適化等,複雑な物理現象を伴う問題に対しては,量子アニーリングの適用例は少なく,スマート製造分野への適用可能性は明らかではなかった。
そこで研究では,将来が期待される「フォトニック結晶レーザー」の構造最適化問題に取んだ。フォトニック結晶レーザーは,大面積・単一モード動作が可能という特長を有する。
しかし,これまでフォトニック結晶レーザーの設計では,光源面内で一様なフォトニック結晶を採用したデバイス設計にとどまっていた。本来,フォトニック結晶レーザーでは,面内の場所ごとにフォトニック結晶の形状を変化させた“空間分布の設計”が可能であるため,その極めて大きな設計自由度を上手く活用することできれば,その性能の飛躍的な向上が期待されるという。
そこで研究では,フォトニック結晶レーザーの構造最適化問題に,量子アニーリングの手法を適用することを検討した。直径1mmの二重格子PCSELを設計の対象として,①フォトニック結晶の格子点形状,②光源面内のフォトニック結晶の発振周波数の空間分布,③光源面内の注入電流分布,の3種類の変数を同時に最適化することを試みた。
最適化するレーザー性能として,「光出力P」「xおよびy方向のビーム拡がり角θxおよびθy」「直線偏光比η」の3つの指標に着目。これらの指標を用いて,Q=Pη/(θxθy)/1000 で性能指数を定義した。理想的なレーザーでは,出力と直線偏光比は大きく,拡がり角は小さいことが望ましいため,この式で定義される性能指数Qを最大化することを目標に構造最適化を行なった。
最適構造の探索の結果,一様な発振周波数分布および注入電流分布を有する二重格子フォトニック結晶レーザー(従来構造)を初期構造として,アニーリングを繰返し行なうことで,初期構造の3.7倍の最高性能指数が得られ,従来設計とは異なる非自明な空間分布を有するデバイス構造を得た。さらに,光出力・ビーム品質・直線偏光比全ての性能が向上していることも確認出来た。
研究グループは,モノづくり分野における量子アニーリングの有用性が実証されれば,量子技術を活用したスマート製造の実現に,将来的に貢献することが期待されるとしている。