東京工業大学,東京大学,文部科学省光・量子飛躍フラッグシッププロジェクト(Q-LEAP)は,ダイヤモンド中の窒素-空孔(NV)センタによる量子センサを用いて,ラットの心磁をミリメートルスケールの空間分解能で可視化することに成功した(ニュースリリース)。
心臓は,内部で規則正しく電流を発生させ筋肉を収縮させることで心拍をコントロールしている。その電流が乱れる現象である不整脈は,さまざまな心臓疾患の要因のひとつとなっている。この不整脈は,ときとして命に係わる事態を招くが,その発生や成長のメカニズムは未だ完全に解明されていない。
心臓疾患の発生機構解明のためには,心臓電流の様子の可視化が効果的と考えられており,可視化技術のひとつとして心磁イメージングが近年注目されている。心磁イメージングは,従来の電気生理学的検査とは異なり磁場を検出対象としているため,生体の電気の流れやすさなどに影響を受けず,心臓電流のありのままの姿を捉えることができる。
ところが,心磁イメージング技術として現在実用化されているSQUIDやOPMは,提供する空間分解能がセンチメートルスケールに留まっており,ミリメートルスケールの微小領域から発生する不整脈の解明においては,より高い空間分解能を実現できる心磁イメージング技術が求められていた。
研究では,ダイヤモンド中の窒素・空孔欠陥による量子センサを初めて心磁イメージングに応用し,ラットの心臓内部を流れる電流が作る磁場をミリメートルスケールの空間分解能で可視化することに成功した。
特に,室温で動作可能であり小型化も容易であるというダイヤモンド量子センサの利点を活かして,心臓表面から1mmの距離で磁場計測ができるようになったことが,高い空間分解能を得られた要因だという。
この近距離の実現のため,ダイヤモンドを放熱性に優れた先端が10mm四方のアルミヘッドに搭載し,心臓を人工呼吸管理のもと胸部切開によって露わにした。心磁の2次元画像化は,ラットを量子センサに対して水平方向に移動させることで達成した。
また,ダイヤモンド量子センサの装置は約60cm立方の大きさで,環境磁場ノイズを低減するために全体が4層の磁気シールドで囲まれている。さらに,得られた磁場の画像から,心臓内部の電流密度を推定した。
研究グループはこの技術により,例えば,心磁から心臓内部の電流分布を特定する技術を応用することで,電気信号の渦巻型興奮や異常自動能といった不整頻脈の発生および成長を,より精密に分析することが可能となるとしている。