大阪大学,東京工業大学,大阪医科薬科大学は,紅藻のモデル生物Cyanidioschyzon merolaeにおいて,細胞質ゾルで合成される核コードの葉緑体タンパク質前駆体に結合し,葉緑体への輸送に関与する新奇因子を世界で初めて同定した(ニュースリリース)。
葉緑体は,植物や藻類が光合成や油脂合成などの物質生産を営むのに必須な細胞内小器官オルガネラで,3千種類もの異なる核コードのタンパク質が葉緑体へ運ばれることで,その機能を果たすことができる。この葉緑体タンパク質の輸送に関わる分子装置は,緑藻や植物では明らかにされていたが,非緑色藻類についてはゲノム配列からの推測に留まっていた。
今回,研究グループは,紅藻Cyanidioschyzon merolaeの葉緑体タンパク質輸送機構に生化学的アプローチで迫ることで,葉緑体を包む二重の膜のそれぞれで以下の発見をした。
まず内包膜においては,Tic20やFtsHといった緑藻や植物の輸送装置の原型といえるタンパク質が関与することを示した。一方で,外包膜においては,緑藻や植物で見出されているTOC輸送装置の関与は確認できなかった。
一方,GTP結合モチーフを持った新奇な因子が,葉緑体の外側で合成された葉緑体タンパク質前駆体を認識して葉緑体外包膜へ輸送している事を突き止め,これをPTF(Plastid Targeting Factor)と命名した。
PTFは緑藻や植物には対応するオルソログは見つからないが,同じく非緑色藻類である灰色藻の葉緑体には表在しているという報告もあるという。また,PTFは,マラリア原虫のアピコプラストなど,紅藻由来の二次共生生物のプラスチドへのタンパク質輸送に関与するタンパク質とも相同性を示した。
この発見は,紅藻や灰色藻の葉緑体タンパク質輸送機構が,少なくとも外包膜への標的化の段階までは,緑藻や植物と大きく異なっている事を示すもの。
今回のPTFの発見は,従来,紅藻や灰色藻において既に確立していた葉緑体タンパク質の輸送機構が,さらに変化したものが緑藻へと進化していったという通説に沿う解釈も可能な一方,共通の祖先から派生したとしても,紅藻や灰色藻型の輸送機構を獲得したグループと緑藻型の輸送機構を獲得したグループが独立して別個に生じたという新たな進化のシナリオも提起する。
これは,葉緑体が進化を遂げてきた過程の解明に近づく発見。研究グループは,紅藻だけでなく,珪藻や褐藻のような紅藻由来の二次共生藻類など,非緑色藻類を用いた葉緑体工学への応用も期待されるとしている。