名古屋大学,大阪大学,大阪公立大学は,分子の分離によく利用される薄層クロマトグラフィー(TLC)と,金ナノ粒子に光照射することにより発生する力(光圧)を組合せ,光によるナノ粒子の新たな分離・選別法である「プラズモンTLC法」の開発に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
粒子組成がZnAgInS,CuInGaS,AgInGaSなどの低毒性元素からなる多元量子ドットは,広範囲に使える次世代の量子ドット材料になると期待されている。
これらの量子ドットを高品質化してより高機能なものとするためには,粒子サイズや形状を一定にし,さらに粒子組成を高精度に制御して,量子ドットの光学特性を均一なものとする必要があるが,これまでの方法ではできなかった。
研究グループは,金(Au)ナノ粒子などの局在表面プラズモン共鳴(LSPR)を示す材料に光を照射することで発生する力(光圧)を利用し,これを従来の薄層クロマトグラフ(TLC)に組み込むことで,量子ドットの光特性の違いによって選別することができる,新たな分離法「プラズモンTLC法」を開発した。
Auナノ粒子を担持したプラズモンTLCプレートに光照射しながらZnAgInS(ZAIS)量子ドット(サイズ:19nm)を移動させると,光照射したときにのみ,Au担持部分に量子ドットが捕捉された。レーザーでなくとも,0.5~1.0W/cm2程度の光強度で捕捉できるという。
サイズが同じで吸収特性の異なる二種類の粒子(ZAIS粒子(可視光吸収)とAgCuInTe(ACITe)粒子(可視ー近赤外光吸収))を混合したものを,820nm単色光照射によるプラズモンTLCで分離することもできた。
ACITe粒子は,TLCに担持したAuナノ粒子とともに光励起され,効率よくAuナノ粒子部分に捕捉されるが,光励起されないZAIS粒子は捕捉されずにTLC上方まで移動する。
解析によって,担持されたAuナノ粒子と量子ドットとの間に働く光圧が,量子ドットの光吸収特性によって大きく変化した結果,量子ドットが効率よく分離・選別されるというメカニズムを解明した。従来の化学的な手法であるサイズを用いる粒径分離法では,これら粒子は分離できなかった。
また,照射単色光波長と強度を一定として,サイズの異なるZAIS量子ドットの分離を行なうと,サイズが8nm以上の量子ドットが効率よくAu粒子担持部分に光捕捉されたが,6nm以下の粒子は光捕捉されなかったことから,効率よく粒径分離が達成されることもわかった。サイズが同じで光学特性の異なるナノ粒子を分離する方法は,この「プラズモンTLC法」が唯一だという。
研究グループはこの成果が,将来のナノ材料合成・ナノ機能デバイス作製のための新しい基盤技術になる成果だとしている。