量子科学技術研究開発機構(QST),欧州X線自由電子レーザー研究所(European XFEL),独Siegen大学らは,X線自由電子レーザー(XFEL)施設「SACLA」を用いて,フェムト秒レーザーの照射に伴う固体表面のアブレーションのダイナミクスを,ナノメートルの深さ分解能とピコ秒の時間分解能での計測に成功した(ニュースリリース)。
超短パルス高強度レーザーや,“超”高強度レーザーと呼ばれる,集光強度が1018W.cm-2を大きく超えるようなレーザーと固体との相互作用において,レーザーが照射された固体表面付近のナノスケールの構造変化を実時間で計測する手法が求められている。
研究グループは,SACLAによる微小角斜入射小角X線散乱(GISAXS)を用いることで,この超高速ナノダイナミクスを観測した。GISAXSはこれまで,スパッタリングによる薄膜生成など,ミリ秒程度の表面成長プロセスを可視化する手法として放射光で用いられてきた。
今回,SACLAを用いることで従来のミリ秒からピコ秒と,9桁に及ぶ時間分解能の改善が実現された。また,空間ポインティングに非常に敏感なGISAXSにおいては,SACLAの非常に安定なX線ビームが重要な役割を果たした。
この観測手法では,サンプルにはナノ多層膜サンプルが使用され,X線はtotal external reflection angleと呼ばれる全反射角(約0.5度程度)よりもわずかに大きな入射角で入射される。これらの非常に浅い入射角度では,X線が固体へ侵入する深さは数十nmから数百nmに制限され,表面の構造変化に非常に敏感なプローブとして作用する。
輝度の非常に強い鏡面反射をビームストップによりブロックし,表面付近の電子密度分布によって散乱された,鏡面反射よりも何桁も強度の低い散漫散乱をSACLAで開発された高性能2次元X線検出器で計測した。
これにより,わずかフェムト秒のシングルパルスで解析に可能な十分な信号が得られることが示された。これらの散漫散乱パターンを解析することでナノメートルの深さ分解能を持つ電子密度プロファイルが再構築され,さらに,得られた密度プロファイルを最先端のプラズマシミュレーションと比較することで新たな知見も得た。
これまでこのレーザー強度領域で頻繁に用いられていた流体コードと実験結果との間には大きな差異が見られた一方,粒子衝突が支配的となる今回のプラズマ領域での使用は不適切と考えられてきたParticle-in-cell(セル内粒子)コードでは,粒子衝突モデルを改善することで実験結果を比較的良く再現できた。
研究グループは今回の手法が,高強度レーザー・固体相互作用の初期の表面ダイナミクスの実時間観測を可能にするとしている。