東北大学,米カリフォルニア大学ロサンゼルス校,米ジョンズホプキンス大学は,ナトリウムイオン電池の負極に適したハードカーボンからなる連続周期構造の”カーボンマイクロラティス”を3Dプリンタで作製した(ニュースリリース)。
次世代蓄電デバイスとして,リチウム以外の様々な金属イオンを用いる研究がされている。海に囲まれた日本にとって,ナトリウムイオン電池は資源確保の観点から優位性がある。しかし現段階でナトリウムイオン電池のエネルギー密度や出力密度はリチウムイオン電池に劣っており,高性能化のために新材料の開発が望まれている。
電池の容量は,電極にどれだけイオンを充填できるかで決まる。しかしながら電極材内部はイオン移動が遅いため,従来の薄膜・ペレット状の電極を厚くしても効果的な電極材は実現できず,容量と出力の両立にはセルをスタックするしかない。
電極全体に金属イオンが高速で出入りできるよう,マイクロスケール(1~100μm)で制御された連続した3次元イオン拡散パスを実現できれば,出力を損なうことなくセル当たりの容量を増大でき,スタック構造と比べて生産コストの削減にもつながる。
研究では光造形3Dプリンタの中でも安価な液晶マスク型を採用し,連続的な3次元構造を有する光硬化性樹脂の前駆体を作製した。これを真空下1000˚Cで熱処理すると,設計した構造を維持したまま60%収縮し,100~300µmの構造単位からなるカーボンマイクロラティスを得られた。
これらをナトリウムイオン電池負極として用いることで,構造単位が微細になる程,充放電特性が向上することを確認した。また,従来の粉末ペレット電極と比較した結果,最も緻密な構造を有するマイクロラティスは単位面積当たり容量を4倍まで向上させることができた。
今回作製したカーボンマイクロラティスは,黒鉛のような結晶性を持たないハードカーボンと呼ばれる構造を持ち,多くの金属イオン電池候補の中でもナトリウムイオンの充放電との相性が優れている。
この特性を用い,充放電の各段階で電極を回収・洗浄し,ナトリウムイオンの侵入がハードカーボン内部の構造に与える影響をX線回折法により可視化することにも成功した。
この成果は,性能面でリチウムイオン電池に匹敵するナトリウムイオン電池の開発が期待されるほか,今後は数値シミュレーションを用いた周期構造の最適化を行なうことで,さらなる高性能化が期待される。
また,光造形方式は樹脂の分子構造の改良や,他の材料との混合でハードカーボン以外の材料にも対応できる可能性があり,研究グループは,陽極もマイクロラティス化したナトリウムイオン電池の開発や,他の金属イオン電池に適したマイクロラティス電極の開発に繋がるとしている。