東北大学の研究グループは,原子オーダーの厚みをもつ半導体2次元シートである遷移金属ダイカルコゲナイド(TMD)を活用することで,可視光透過率約80%の肉眼でほぼ存在が認識できないレベルの高透明太陽電池の開発に成功した(ニュースリリース)。
あらゆる場所に設置可能となることから,透明太陽電池は環境調和型の次世代クリーンエネルギーデバイスとして注目を集めている。しかし,従来“透明太陽電池”と呼ばれているものでも,可視光透過率は60%程度以下であり,目視で存在がはっきり確認できる“半透明な太陽電池”がほとんどだった。
研究グループは2次元原子シートに着目。グラフェンと類似の構造を持つ原子シートである遷移金属ダイカルコゲナイド(TMD)は,グラフェンにはない半導体特性を示すことから,透明発電層としての利用できる。
2017年に研究グループは,TMD透明太陽電池の新たな発電機構であるショットキー発電を提唱し,世界最高の発電効率(~0.7%)の半透明太陽電池を報告したが,電極に不透明なバルク金属を用いていたため,高透明ではなかった。そこで今回,ショットキー型原子層太陽電池をベースに,透明電極のITOを活用した。
ショットキー原子層太陽電池で発電効率を高めるには,ITO/TMD界面ではできるだけ高いショットキー障壁を,対向部では低い障壁を形成して電荷分離領域とキャリア捕集領域として利用する。従って,ITO/TMD間のショットキー障壁を自在に制御可能な技術が必要となる。
そこで,ITO電極の表面に数nm以下の様々な金属薄膜を堆積させてITO電極の仕事関数を制御することで,ITOの透明度を維持したままITO/TMD間のショットキー障壁高さの制御を試みた。その結果,ITOの透明度を損なうことなく,TMD接合部のショットキー障壁高さを自在に制御できた。
そこで,電荷分離領域とキャリア捕集領域にそれぞれ最適な金属薄膜/ITO 構造を選択してデバイスを作製し太陽光発電性能を比較すると,単純なITO電極のみを用いた場合に比べ,発電効率が1000倍以上も向上した。
さらに,大面積化では,面積増加に伴う開放電圧の低下を抑制するため,電極幅と長さから算出されるアスペクト比を一定値以下に設計した結果,デバイス面積の増加に従いPTが増加した。これに基づいてTMD太陽電池を1cm2の石英基板上に大規模集積化した結果,可視光透過率約80%を維持した状態で,420pWの太陽光発電を実証し,実用デバイスの駆動が十分可能だと明らかにした。
研究グループは今後,これらの複数の基板を接続した大規模モジュール化を進めることで,大電力発電が実現できるとしている。