神戸大学と産業技術総合研究所は,カーボンナノチューブに安定したn型特性を付与することのできるドーピング物質を発見した(ニュースリリース)。
熱電発電デバイスは,発電量を高めるために、プラスの電気を流しやすいp型材料と,マイナスの電気を流しやすいn型材料を交互につなげて作られる。したがって,p型とn型,両方の材料を用いることが望まれる。
熱電発電デバイスの材料として期待されるカーボンナノチューブ(CNT)は,空気中に含まれる酸素分子の影響によってp型になりやすい反面,安定してn型の性質を発現させることが困難だった。
CNTをp型やn型に変えるドーピングの探索研究が世界で行なわれている。特に,熱電発電デバイスは高温の熱源に設置して利用されるため,高温環境でも長期にわたってn型の性質を保持できるドーピング剤の開発が切望されていた。
今回の研究では,CNTの新しいn型ドーピング剤として有機超塩基が有効であることを発見した。有機超塩基の溶液にCNTの膜を5分浸漬する,またはCNTの膜に溶液を少量滴下するだけの簡便な処理によって,CNTの性質がp型からn型へと変化することを発見した。
また,使用した有機超塩基の中でも,TBD (1,5,7-triazabicyclo[4.4.0]dec-5-ene)とMe-TBD (7-methyl-1,5,7-triazabicyclo[4.4.0]dec-5-ene) をドーピングしたものについては,そのn型特性が,空気中100℃において半年以上の長時間にわたり持続する安定性を備えていることがわかった。
さらに,開発したn型CNTをシート状に加工し,p型シートと交互に接続することで,良好な発電特性を示すオールCNT熱電発電デバイスの作製に成功した。
熱電発電以外にも,光センサやトランジスタなど,p型とn型の材料を組み合わせることで機能性が向上するデバイスは数多く存在する。安定してn型の性質を発現できる有機材料は,p型材料に比べ圧倒的に不足しているため,この成果は有機材料を用いた各種デバイスの開発にも大きく貢献することが期待されるとする。
研究グループは,今回示したように,同じ有機超塩基に分類される分子でも,わずかな分子構造の違いによって,n型CNTの安定性が劇的に変わるため,ドーピングのメカニズムや安定性の獲得に寄与するパラメータを解明するためのモデル材料としての利用も期待されるとている