北海道大学の研究グループは,結晶の中の分子が変形して,結晶同士が自由に連結・合体できる新しい「フォトニック分子列車」の開発に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
近年,分子で構成される結晶が圧力や蒸気などの外部刺激によって構造変形する「ソフトクリスタル」の研究が盛んに行なわれている。ソフトクリスタルは外部刺激によって結晶中の分子の並び方が変わる物質であり,圧力センサーや蒸気検知センサーなどへの応用が期待されている。
一方,非常に弱い相互作用の分子間力で作られる「分子結晶」は光電機能に優れた物質が多く,その特性は分子の構造や配列によって自在に変化させることができる。このため,分子結晶は従来の半導体結晶とは異なる新しい電子デバイス材料として現在注目されている(有機トランジスタなど)。
そこで研究グループは,本来は非常に弱い相互作用の分子結晶中で,分子が変形して強い化学結合を介して連結合体し,光情報を伝達できる新しいソフトクリスタル分子結晶「フォトニック分子列車(Photonic molecular trains)」を開発した。
この研究成果の変形・合体する列車型分子は発光性の希土類錯体によるもの。この分子は発光性の希土類イオンを2つ含み,ピリジン分子(py)添加により分子構造が変形して連結可能状態となる。この後にピリジン分子を取り除くことで,結晶中で隣の分子と非常に強い配位結合でつながり連結合体する。
研究のポイントは次の3点。
①希土類錯体の分子結晶中での三段変形により,列車分子が強い配位結合で連結して強発光すること
②2つの希土類イオンの一方をテルビウム(Tb)にすると緑色,ジスプロシウム(Dy)にすると黄色に発光すること(光波長の変換が自由に設計可能)
③2種類以上の分子結晶も連結が可能。結晶の中で分子が連結し,光情報を一方向に伝達すること。
なお,③については連結を解除することもできる。つまり,可逆的にトランスフォームが可能。分子外部刺激でトランスフォームする分子(フォトクロ分子など)はこれまでも報告されていたが,分子結晶が強い化学結合を介して連結合体するものは世界初。
今回の成果により,従来の光ファイバーでは困難な分子レベルの極小光導波回路の設計(高性能フォトニック結晶),分子結晶を組み合わせて接合した発光素子や太陽電池材料,高度な光情報(偏光)を伝達できる分子結晶デバイスの構築の展開が可能となるという。
研究グループはこの成果が,最先端の高速光コンピューター回路の実用化の可能性を大きく切り開くものだとしている。