神奈川県立産業技術総合研究所(KISTEC),横浜国立大学,ニコンは,フェムト秒レーザー加工初期過程において生じる電荷分離を起源としたテラヘルツ波放射を,励起パルスごとに観測することに成功し,その波形がレーザー加工の進行に伴って変化していくことを見出した(ニュースリリース)。
超短パルスレーザーを用いたフェムト秒レーザー加工は,ナノ秒レーザーや連続波レーザーなどを用いた加工と比較すると熱変形が比較的少なく,高精度な加工が可能であることから,産業界でも盛んに用いられている。しかしながら,加工プロセスの初期過程を解明することは難しく,特にパルスごとの計測に課題があった。
そこで研究では,超短パルスレーザー照射時に発生するテラヘルツ波放射が,初期の電荷分離を反映することに着目し,その検出を試みた。
シングルショットのテラヘルツ分光法には,開発した階段状の光学素子を用いた。階段状の素子によって,レーザー1パルスを多数のパルスに分割し,それを検出用のプローブ光として用いることで,レーザー1パルスでの波形検出が実現できる。
また,レーザー加工初期過程からのテラヘルツ波は微弱であることから,位相オフセット法と呼ばれる高感度なテラヘルツ波検出手法を適用することにより,1V/cm以下の電場強度であっても波形検出を可能とした。
フェムト秒レーザーアブレーションは高い加工精度を非接触で実現することができることや,加工対象を選ばないことなどから盛んに応用されている。しかしながら,アブレーション過程が不可逆であることから,その原理解明は難しく,特にレーザー照射直後の超高速時間領域のダイナミクスはこれまでにあまり研究されてこなかった。
一方で,ナノ秒レーザーや連続波レーザーによる加工よりも精度の高い加工が,フェムト秒レーザーを用いて実現できる原因は,このような超高速の領域にあるものと期待され,そのダイナミクスを解明する研究が待たれていた。
この研究結果はそのような中でテラヘルツ波放射が,レーザー加工初期過程のダイナミクスを解明する上で,初期の電荷分離過程に関する重要な情報を与えることを示したものであり,その理解に寄与することが可能となるという。
研究グループは,将来的には得られた知見をより高効率・高精度な加工の実現へとつなげ,フェムト秒レーザー加工の発展に貢献できるとしている。