生理学研究所は,効率的なオプトジェネティクスと超高磁場7テスラMRIとを組み合わせ,サルの大脳皮質運動野を光で活性化したときの脳全体の活動を可視化することに成功した(ニュースリリース)。
近年,機能的磁気共鳴画像法(fMRI)をオプトジェネティクスと組み合わせた新しい脳解析技術(オプトfMRI)がマウスやラットの研究で用いられるようになり,脳の中の特定の神経集団の活動を光で制御して,その活動が伝わる脳のネットワークなどを明らかにすることが可能になった。
この技術をヒトに近い脳を持つサルなどの霊長類に適用する試みもなされてきたが,脳が大きいこと,透明度が低いこと,光受容体の発現が低いなどのせいか,成功例が非常に少なかった。
今回,研究グループは,オプトジェネティクスと超高磁場7テスラMRIを組み合わせ,サルの大脳皮質運動野を光で活性化した時の脳全体の活動を可視化することを試みた。麻酔によって安静にしたサルの大脳皮質運動野をオプトジェネティクスによって光で活性化し,そのときの脳活動を高感度fMRIで計測したところ,大脳皮質運動野に加えて小脳の一部に強い活動があらわれることがわかった。
小脳は身体の運動において重要な働きをする脳の部位の一つ。小脳は大脳と直接には繋がっていないことが知られているが,今回の結果は,大脳皮質運動野と小脳の特定の部位の間に強い機能的な繋がりがあることを示している。
また,大脳皮質運動野の中でも手・脚などの運動に関わる部位をそれぞれ光で活性化すると,小脳においてもそれぞれ異なる部位が活動した。このことは,小脳に,大脳皮質運動野と繋がった手・脚などの身体部位の「地図」があることを明確に示すもの。
この「地図」は,過去のサルの神経連絡を調べた解剖学的研究や運動時の神経活動を調べた研究,ヒトの運動時の脳血流変化を調べたfMRI研究で報告されている身体の「地図」ともよく対応していたという。
脳のどことどことが繋がっているのかネットワークを明らかにすることは,脳研究の基本。従来の方法では,脳の一部を活性化させ,他の脳領域を順に調べていく必要があった。今回のオプトfMRI方法を用いれば,光で活性化した時の脳全体の活動を可視化することができ,研究が大いに進展することが期待できるという。
研究グループは,オプトジェネティクスが霊長類で実用化され,その影響を全脳で調べることができることにより,脳深部刺激療法などの病気治療への応用に期待できるとしている。