矢野経済研究所は,量子シミュレーションなど世界の7分野の量子技術に関連した技術・サービス市場を調査し,現状と今後の動向を明らかにした(ニュースリリース)。
従来,量子技術は理論物理学など学術分野での利用が中心だったが,量子の振る舞いやその影響など量子力学を利用した,われわれの身近な製品や関連するデバイスあるいは制御などの技術としての活躍が始まっている。実際に量子技術を使用した製品となって登場し始めており,今後も増加することが期待されている。
この調査では量子シミュレーション,量子センシング,量子暗号通信,量子生命科学,量子物性,量子材料,量子AIの7分野に関連した技術・サービスを対象とし,2025年における量子技術に関連した技術・サービスの世界市場規模を3兆4,618億円になると予測した。
さらに,量子生命科学の注目分野として,生体ナノ量子センサーを取り上げた。ナノメートルサイズの特殊なダイヤモンドNV(Nitrogen-Vacancy)センターを用いて,生きた細胞内にある生体分子が起こすナノメートルスケールの回転運動を3次元で計測する新たな量子技術が開発されている。
実際,生体ナノ量子センサーを用いて,位置変化を伴わない生体分子の回転運動として,ATP(Adenosine TriphosPhate:アデノシン三リン酸)アーゼがATPを合成するときの回転運動や,抗がん剤がターゲットとなるがん細胞表面の受容体に結合したときの動きの変化を計測することに成功している。
このような生体ナノ量子センサーは,世界最小の3次元回転センサーとして,新薬研究や再生医療の幹細胞モニタリングなど,生命科学の新たな計測ツールとして幅広い活用が期待されている。
量子技術は産業界の多岐にわたる分野からの注目が高まりつつあり,世界各国での研究開発予算も増加の一途を辿っている。今後も新たな関連プレーヤーの参入やそれらによる社会実証事例が続いていくが,本当の価値を生み出すためにはそこから更にもう一歩踏みこんだ成果を挙げることが必要だとする。
量子技術が多岐にわたる産業分野で継続的な事象となることで,2050年の量子技術に関連した技術・サービスの世界市場規模(7分野)は70兆3,640億円まで拡大すると予測する。