名古屋大学と浜松ホトニクスは,レーザーを用いてGaN基板をロスなく短時間でスライスする技術を発明した(ニュースリリース)。
脱炭素社会,持続可能な社会のためには電力の効率的な利用は欠かせない。電力の効率的な利用のためのパワーエレクトロニクスにおいて,現在パワー半導体及びパワー半導体を用いたパワーデバイスが注目を集めている。
パワーデバイスは電気自動車や電車/新幹線等で動力に効率的に電力を引き渡す装置や,太陽光発電や風力発電等の自然エネルギーによって発電された電気を使える形に変えるもの,そしてパソコンやスマホの充電用のACアダプターで交流の電力をバッテリーに充電できる形にするものとして,様々な分野で利用されている。
そのパワーデバイスを作るための材料であるパワー半導体において,GaNは,より高性能なパワーデバイスを作製するための次世代の材料として注目されている。しかし,GaNは結晶成長が難しいこと,結晶がとても硬くて脆い物質であり加工が難しいことなどから,GaN結晶から切り出したGaN基板の価格が高くなることが,パワーデバイスとしての利用の大きな障壁となっていた。
レーザスライスは,ワイヤーソーを用いた従来の半導体基板の切り出し方法に置き換わるもの。ワイヤーソーを用いるスライスでは,切断時にワイヤーが通る部分の結晶は切りくずとなって利用できない。GaNは非常に加工がしづらいため,太いワイヤーを用いる必要があり,切断部分の素材ロスは切り出したい基板の厚さと同程度となってしまう。
一方,今回開発したレーザースライスは,GaNのへき開を利用するため原理的にはGaN結晶の無駄が生じない。また,GaN基板を透過するレーザー光を用いて加工を行なうため,大きな振動やストレスを与えずGaN結晶をスライスでき,パワーデバイスを形成した後のGaN基板からデバイスを壊さずに薄く切り出すこともできる。
これにより,切断後のデバイスも正常に動作可能だとする。また,レーザーを用いてGaN結晶のへき開を高度に制御することによって,GaN基板の成形のみだけではなく,様々な応用が可能なGaN結晶の新たな加工方法となるという。
今回の成果により,GaN単結晶のロスを極小に抑えつつ高速で切断できる。GaN結晶は高価かつ非常に硬く脆い素材だが,研究グループは,その材料となる材料的な面でも,時間的な面でも,効率的な基板成形はGaN基板価格の低廉化に大いに役立つとしている。