農研機構は,イチゴのジャストインタイム生産の実現に向け,イチゴの生育情報を自動収集する生育センシングシステムを開発した(ニュースリリース)。
現状,栽培管理に基づくイチゴの出荷量の調整は,生産者の経験に基づき行なわれている。今後,生産者の減少が続く中で,経験や勘に依存せず,生産者がデータに基づき判断できるジャストインタイム生産(JIT生産)を実現するために,研究では,イチゴ群落の画像を自動で収集し,必要な生育情報を評価する生育センシングシステムを開発した。
これは,多様な気象環境を再現する人工気象器に格納可能な,イチゴ用生育画像自動収集システム。市販のRGB-Dカメラ,熱画像カメラ,電動スライダを組み合わせ,複数株イチゴ群落のRGB画像・熱画像・距離画像を取得する。
近接画像をつなぎあわせるパノラマ撮影方式を採用しており,カメラから対象物が25~40cmと接近していても,ハウスの高設ベッドのような,より長いイチゴ群落を撮影することも可能。現状の試作機では,RGB画像・距離画像を1株当たり約4.7秒の速度で取得する。
果実発育の開始タイミングとして重要なイチゴ開花日の特定には,画像から開花状態の花を精度よく認識する必要がある。今回開発した開花認識AIでは,蕾~花弁離脱までの開花の状態を多段階に分けて学習させる手法を新たに採用し,開花認識率は88.8%へ大幅に向上。人工気象器で試験した45花の開花日を平均絶対誤差±1日以内で特定できた。
果実の発育は温度の影響を強く受け,その速度は気温に加え果実温度を考慮することで正確な評価が可能となる。今回のシステムでは,イチゴのRGB画像・熱画像を同時に取得できるため,RGB画像で果実をAIで認識し,熱画像で±0.4°C以内の誤差で計測した果実温度を表示することが可能。
さらに,距離画像を利用して果実同士の境界を検出するプログラムを開発し,果実同士の分離が難しい房なり状態のイチゴでも,個別の果実温度測定が可能になった。今後,取得した果実温度を学習用データとして,収穫日を高精度に予測する生育期間予測AIを開発するという。
これらの開発技術を統合した生育センシングシステムを人工気象器で栽培するイチゴに供試し,適用性を確認した。精密な環境制御により多様な気象条件を再現しながら,経時的な生育情報の収集が可能になったとする。
研究グループは,このシステムにより収集される開花日・果実温度のデータを用いて,今後,高精度な生育期間予測AIを構築する。最終的には,施設環境制御システムと組み合わせ,JIT生産システムの実現を目指す。今年度,ハウス等での試験を通じてJIT生産システムを実証し,導入効果を検証するとしている。