東北大学と東京大学らは,スピン流を用いて強磁性体の体積を変調できることを実証した(ニュースリリース)。
物質を加熱すると原子の熱の“ゆらぎ”が増大し,熱膨張する。強磁性体においては,この熱膨張に加え,スピンの“ゆらぎ”(スピンゆらぎ)の温度変化や磁場変化に応じて体積膨張/体積収縮することが知られており,これを磁気体積効果と呼ぶ。
磁気体積効果を用いることで熱膨張を相殺し,熱変形しにくい物質を作ることができるため,磁気体積効果に起因するスピンゆらぎと体積変化の結びつきは古くから盛んに研究されてきた。
一方で,スピンゆらぎを制御する新たな手法として,電子のスピンの流れであるスピン流がある。スピン流を磁性体に注入することで,スピンゆらぎを直接変化させられることがわかっており,スピンゆらぎが体積と結びつくという磁気体積効果の知見に基づけば,スピン流によるスピンゆらぎ制御によって磁性体の体積を変調できることになる。
そこで研究では,スピン流体積効果の実証のためにTb0.3Dy0.7Fe2という強磁性体に注目。Tb0.3Dy0.7Fe2はスピン状態の変化に由来する大きな弾性変形を示すことが知られているため,スピン流注入に応じた体積変化の測定試料として適しているという。
実験では,Pt薄膜にTb0.3Dy0.7Fe2薄膜を成膜した試料を用いた。Pt中のスピンホール効果を用いてスピン流をTb0.3Dy0.7Fe2に注入し,その時のTb0.3Dy0.7Fe2の膜厚変化を測定した。その結果,Ptからのスピン流注入に応じてTb0.3Dy0.7Fe2薄膜の膜厚が変化することがわかった。
さらに,Pt薄膜をW薄膜に変えてスピンホール効果による注入スピンを逆向きにすると,Pt/Tb0.3Dy0.7Fe2試料とは逆符号の膜厚変化を示すことが明らかになった。また,系統的な磁場強度/磁場角度依存性の測定結果がスピン流注入に基づく理論計算により説明されることを示した。
この研究により,温度/磁場変化だけでなくスピン流によっても磁性体の体積が制御可能であることが明らかになった。研究グループは,微小化が進む精密機器部品において,スピントロニクス分野の知見を用いた新たな材料開発や,力学素子作製・制御への応用可能性が示されたとしている。