富士キメラ総研は,エレクトロニクス産業において需要が高まっている有機エレクトロニクス関連の世界市場を調査し,その結果を「DX/サステナブル社会における有機エレクトロニクスの将来展望 2022」にまとめた(ニュースリリース)。
それによると,有機エレクトロニクスデバイスの世界市場は,スマートフォンで採用が進んでいる中小型AMOLEDをはじめ,大型AMOLEDやグルコースセンサーの規模が大きく市場をけん引しており,2021年は4兆3,516億円を見込む。
一方,既存品に対し性能が低い点やコストが高い点などが課題で,現状は規模が小さいデバイスも,2025年までにはそれらの課題が解決され,市場は本格化すると予想する。有機フォトダイオードはスマートフォンの画面内蔵型指紋センサーで採用が進むとみらるほか,ペロブスカイト太陽電池はシリコン系太陽電池からの置き換えが進むとみる。
また,圧力センサーシートや心電位・筋電位センサー,ガス・環境センサーは,ヘルスケア分野やバイオセンサーでの利用増加が期待され,2035年の市場は7兆4,525億円を予測する。
有機エレクトロニクスデバイスにおけるフレキシブル・プリンテッド採用率を見ると,高いウェイトを占める中小型AMOLEDはプラスチック基板を採用したフレキシブル品が主流となっており,今後もフレキシブル品を中心に伸びるとみる。2022年以降に投入される中小型AMOLEDの大半がフレキシブル品であることからフレキシブル採用率は上昇し,2035年には72.6%を予測する。
プリンテッド採用率では,グルコースセンサーなどは採用率が高いものの,AMOLEDは真空蒸着が主流であるため採用率が低くなっている。2025年には,有機フォトダイオードやペロブスカイト太陽電池など,プリンテッド採用率100%のデバイスが伸びるものの,採用率が低い中小型AMOLEDも伸長するため,採用率は緩やかな上昇を予想する。
今後は,真空プロセスを採用していたデバイスにおいても,フレキシブル・ハイブリッド・エレクトロニクス(FHE)におけるデバイス機能の複合搭載,大面積対応・コストダウンを目的として,プリンテッドの採用が増えるとみている。
注目分野向けデバイスの市場では,医療・ヘルスケア分野の市場において血糖値測定用のグルコースセンサーの規模が最も大きく,次いでスマートウォッチ用の中小型AMOLEDが大きいという。
2030年までには有機フォトダイオードによるX線CT装置の実現や乳酸センサーの心疾患リハビリ用などにより,医療分野向けデバイスの市場が立ち上がると予想する。また,医療・介護現場の効率化を促進するデバイスとして,要介護者の動態を把握できる圧力センサーシートなども伸びが期待され,2035年の市場は8,224億円を予測する。
FA・インフラ分野の市場では,試作や新製品開発などで使われている圧力センサーシート,安全性を確保するために設置されているガス・環境センサー,資材管理などに用いられるRFIDの規模が大きいという。2030年には非破壊検査向けで需要が増加する有機フォトダイオードが伸びるほか,RFIDやガス・環境センサーは工場のスマート化に伴いさらに需要が増加し,市場は大幅に拡大すると予想する。
流通・小売分野の市場では,電子棚札で使われる電子ペーパーや商品の在庫管理で使われるRFIDなど業務の効率化,省人化に使われるデバイス,製品や倉庫の状態を監視するためのガス・環境センサーなどの規模が大きいという。
電子棚札や電子タグの普及により,電子ペーパー,RFIDが引き続き市場をけん引するほか,これらの電源として使われるペロブスカイト太陽電池や有機薄膜太陽電池が伸びると予想している。
自動車分野の市場では,運転者の呼気チェックや燃料漏れの検知などに使われるガス・環境センサーやカーナビゲーションシステムに採用される中小型AMOLEDの規模が大きいという。今後もAMOLEDの採用が広がるほか,自動車の安全性に寄与する車載カメラ向け有機フォトダイオードや有機CMOSイメージセンサー,またドライバーの運転支援を行うソフトアクチュエーター,ドライバーを監視する圧力センサーシートなどの需要が増加すると予想している。