ジャパンディスプレイ(JDI)は,従来の酸化物半導体薄膜トランジスタ(OS-TFT)技術に特性向上を実現するバックプレーン技術の開発に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
この技術は,電界効果移動度が,従来のOS-TFT技術と比較して2倍以上となる高移動度酸化物半導体(HMO)技術,及び4倍以上となる超高移動度酸化物半導体(UHMO)技術。UHMO技術は,電界効果移動度52cm2/Vs という,酸化物半導体TFTとしては非常に高速な特性を量産ラインにて実現した。
この技術により,オフリーク電流が低いという従来のOS-TFT技術の特徴はそのままに,低温ポリシリコン(LTPS)技術と同水準のオン電流を流すことが可能となる。更に,従来はアクティブマトリクス式有機 EL(AMOLED)向け高移動度バックプレーンにはLTPS技術が必須であり,ガラス基板サイズの大型化はG6が限界だったが,この技術ではG8以上への展開が可能だという。
従来のOS-TFT技術では,高い電界効果移動度を得ようとすると信頼性不良の原因となるバイアス温度ストレス(BTS)が悪化し,2つの特性(高い電界効果移動度と安定したBTS)を両立できないといという大きな課題があった。
今回,OS-TFTのプロセスノウハウを駆使することにより技術課題を克服。高い電界効果移動度を有しつつ,同時に安定した特性を得ることができ,OS-TFTの低オフリークとLTPS技術と同等レベルの安定的な駆動能力の両立が可能となるとしている。なお,酸化物半導体には出光興産が開発した結晶性酸化物材料を使用しているという。
この技術は,有機 EL(OLED)製品を始めとしたディスプレーデバイス性能の向上に幅広く貢献するものだという。具体的には,ディスプレイの低消費電力化(低周波数駆動時),VR/AR等メタバース・ディスプレーの映像リアリティ・臨場感の向上(高精細・高リフレッシュレート化),透明ディスプレーの透明感・表示品位向上,大画面化を挙げている。
同社はこの技術の事業化を決定しており,2024年より量産を開始する予定。また,開発中の次世代OLEDとの組み合わせにおいて,ウェアラブルデバイスを中心とした新製品をG6ラインにて量産し,2025年度に約250億円,2026年度に約500億円の連結売上高を目指す。
なお,この新技術は,同社が長年培ってきたバックプレーン技術の更なる進化の追求の過程で開発された技術であり,事業化に際して新たに支出する額は10億円未満だとしている。