京大ら,モット絶縁体に高次高調波発生を観測

京都大学と久留米工業大学は,強相関物質の一種であるモット絶縁体Ca2RuO4において,強い赤外レーザー光を入射すると可視光に変換される高次高調波発生をはじめて観測し,その信号強度が単純な法則に従うことを発見した(ニュースリリース)。

固体結晶の高次高調波では,固体の電子構造を反映した高調波が発生し,そこからバンド構造などの情報が取り出せることから新たな物性測定技術として期待されている。これまで,固体における高次高調波発生は,電子が互いにほとんど独立して運動しているとみなせる半導体で主に研究が行なわれ,原子系と類似した機構での高調波発生が議論されてきた。

一方,固体では電子同士が強く相互作用して運動する強相関物質が存在し,電子相関やその他の物質中の自由度との相互作用によって多様な物性を示す。強相関電子系で高次高調波発生がどのような特性を持つかは,電子同士が強く相互作用している場合に,光の電場によってどのような運動をするかという基本的な問題と関わっている。しかし,実験による観測や特性の解明はほとんど行なわれてこなかった。

研究では,強相関物質の1種であるモット絶縁体の典型的な例であるCa2RuO4に着目して,その高次高調波の観測と特性の解明を目指した。モット絶縁体には電子同士のクーロン反発に由来してエネルギーギャップが生じるが,Ca2RuO4ではこのギャップエネルギーが温度に依存して290Kから50Kまでで2倍以上変化する。このギャップエネルギーの温度依存性を利用することで,モット絶縁体を特徴づけるギャップエネルギーと高次高調波強度の間の関係を調べた。

実験では,光子エネルギー0.26eVの高強度な中赤外光を発生させて,試料(Ca2RuO4単結晶)に絞って生じた高次高調波のスペクトルを分光器と検出器を使って測定した。その結果,9次高調波ではギャップエネルギーの増加によって,強度が2桁以上増幅するという顕著な変化が生じることが分かった。

また,各次数の高調波強度の増幅率はギャップエネルギーに対して指数関数的増加を示した。さらに,0.19eVの中赤外光を使った高調波測定も組みわせることで,増幅率は高調波の光子エネルギーに対してべき乗で増加することが分かった。

研究グループは,これら2つの結果をよく説明できるCa2RuO4の高調波増幅率のシンプルな経験的法則を見出し,この法則が電子相関に由来していることも分かった。

この成果は,強相関電子系ならではの高次高調波の特性を実験的に世界で初めて明らかにしたものであり,その普遍性や微視的な起源が明らかになれば,強相関電子系における非平衡ダイナミクスの理解が大きく進展するとしている。

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