近畿大学理の研究グループは,物理学で用いる高精度な数値計算手法「PEPS法」と量子シミュレーションの二次元空間における性能を相互検証した結果,双方の信頼性を確認し,さらに,PEPS法を用いてこれまで調べることができていなかった未開拓のパラメータ領域において,量子情報の伝搬速度を算出することにも成功した(ニュースリリース)。
量子は「量子力学」に沿って運動している。金属や半導体のなかの電子のように,量子力学に従う小さな粒子が数多く集まってできている物体は「量子多体系」と呼ばれ,身の回りに多く存在している。
金属や半導体を用いて作られているパソコンや携帯電話などの電子機器をさらに発展させるためにも,量子多体系の性質を正確に理解することが非常に重要だが,量子多体系を理論的に調べることが困難であるため,そこで起こる物理現象について明らかになっていないことが多くある。
量子多体系を解明して新たな物理現象を発見する手段として,アナログ量子シミュレーションが注目されている。これは,量子多体系を制御しやすい別のものでアナログに再現する方法であり,例えば,物質中の電子の動きを理解するために,冷却した原子気体と光格子で再現する,といった手法が挙げられる。
量子シミュレーションの技術は発展途上にあり,開発を進める上では,コンピュータを用いた数値計算手法と量子シミュレータの両方で調査を行ない,結果を比較検証することによって,信頼性を高めていく必要がある。
しかし,一次元空間では量子多体系を調べるための精密な数値計算手法が確立されていて量子シミュレーションとの相互検証に利用されているものの,より高次元の空間ではそのような手法はなかった。
今回研究グループは,量子多体系の現象を計算する高精度な数値計算手法の一つであるPEPS法と,光格子中の冷却気体で構成される量子シミュレータの二つを用いて,二次元空間における量子系の情報伝搬の様子をシミュレーションし,相互検証した。その結果,二つの結果はほぼ一致しており,双方の性能の信頼性が明らかになった。
また,この検証によって信頼性が示されたPEPS法を用いて,これまで調べることができていなかった未開拓のパラメータ領域において,量子多体系の情報伝搬速度を算出することにも成功した。
この成果は,二次元空間における量子シミュレータの性能を検証する新たな手法を提案するもので,研究グループは今後の量子シミュレータ開発に貢献できると期待されるとともに,量子情報伝搬の基礎理論構築にも役立つとしている。